6年間の在籍期間で実現した「オセロの4つの角」
平川氏が着任したのは、折しも、新学習指導要領の実施を前に中央を中心に教育改革の機運が高まっていた頃。しかし、現場は文科省の掛け声に対して何をすればいいのかわからず、戸惑いを持っていた時期です。
「既定路線のやり方ではいつまで経っても変わらない」。そう考えた平川氏が、着任後まず行ったのが、県管轄の全県立高校・特別支援学校101校と県内全ての市町村の小中学校を訪問し、合わせて158校を視察。現場の把握から始めたのです。あまり知られていませんが、義務教育は市町村の管轄なので県は直接関与できません。しかし、教育の根幹は義務教育にあるとの思いから、小中学校も視察しました。
そこで確信したのが、学校は子どもにとって社会であり、そこで何を教えられるかで子どもたちは変わる。大切なのは、生きるとは何かという、根源的な教育だということでした。しかし、今の日本の教育は、「皆と一緒に」を教え過ぎていないかと問いかけます。
大切なのは、自らの人生を舵取りしていく主体性を育てるということです。そのような教育に変えていくためには、画一的な教育を変えていかなければなりません。改革を進めるために平川氏が押さえたオセロの4つの角が、①カリキュラム改革、②心理的安全性が担保された組織カルチャーの構築、③劣後の優先順位をつけて業務を行う組織風土の構築、④公立高校の入試改革でした。
「タイムマシンに乗り、未来像を見て、同じ絵を描く」
子どもたちにとって学校が行きたくなる場所になるには、制服を変えるとか、修学旅行を探究的な取り組みにするといった枝葉末節ではない。学校教育の一丁目一番地は、月曜から金曜日までの授業がどれだけ面白くなるかが大事。そのためのカリキュラム改革に取り組みました。

前広島県教育長、昭和女子大学 ダイバーシティ推進機構 客員教授
京都市生まれ。1991年リクルートに入社。企業派遣により1998年南カリフォルニア大学経営学修士(MBA)取得。1999年留学仲介会社を起業。10年間黒字経営を果たす。2010年全国で女性初の公立中学校民間人校長として横浜市立市ヶ尾中学校に着任。2015年横浜市立中川西中学校校長。2018年より広島県教育委員会教育長に就任。年間予算1580億円、26000人の教職員のマネジメントを行う。その間、文部科学省等政府審議会委員なども務める。著書に『クリエイティブな校長になろう』(教育開発研究所)、『あなたの子どもが「自立」した大人になるために』(世界文化社)、共著に『女性部下をうまく動かす上司力』(日本能率協会マネジメントセンター)などがある。 Voicy:『平川理恵の「教育・子育てのツボ」ラジオ』
(写真:本人提供)
しかし、一斉授業から探究へのシフトと言っても、既存のものしか知らなければビジョンは描けません。そこで、皆で同じ絵を描くために行ったのが、国内外の先進事例の視察でした。平川氏は、これを「タイムマシーンに乗って教育の未来の姿を描く」と表現しています。
初年度に行ったのはオランダのイエナプラン教育視察でした。2018年、赴任後最初の市町村の教育長が集まる席で、1〜2割はいると言われる現状の教育に合わない子どもたちのためにも、多様な教育を提供しようと呼びかけ、1つのモデルとしてオランダのイエナプラン教育のビデオを共有します。