生徒たちが疲れ切っていた公立進学校「脱偏差値型の進路指導」で起きた大変化 長崎県立諫早高等学校「キャリア検討会」の成果
偏差値や成績の話はNGで「キャリアエリート」を選抜
こうして始まった「キャリア検討会」だが、いったいどのような取り組みなのか。
一口に言えば、教員による「脱偏差値型」の学力検討会だという。「将来、就きたい職業」ではなく、「興味関心・できること・すべきこと(社会の要請)」の重なる部分、つまり「自分起点のありたい姿」から進路を考えて生徒をサポートする取り組みだ。
具体的には、偏差値や成績、宿題の提出状況などの話は一切NG。下記の8つの観点に当てはまる生徒の情報を共有し、志望校や活動歴の確認を実施する。
1:校外で大人と関わり、PDCAサイクル活動をしている生徒
2:自身のことを定期的かつ詳細にClassiに記録しており、その内容が論理的・批判的である生徒
3:自身を語ることができ、多様な意見を吸収できる生徒
4:志望が強く、具体的な生徒
5:課題研究(総合的な探究の時間)、コンピテンシーテスト、探究型授業(各教科)、校外コンテストで成果を残した生徒
6:ルーブリックによる自己評価が著しく向上している生徒
7:趣味や特技が進路に直結しそうな生徒
8:進路探究スタンプラリー(※)に積極的に取り組んでいる生徒
※医学、社会学、理学、工学など学問を8つの領域に分け、これらに関する校内外のコンテンツに参加してポートフォリオを提出するとスタンプがもらえるラリー
そして、その中から1学年の20%に当たる40~50名ほどの「キャリアエリート」を選抜し、総合型選抜や学校推薦型選抜に向けた支援を行っていく。
「本校では、偏差値に関係なくキャリア特性の高い子をキャリアエリートと呼んでいます。日頃から教員は自分が担当する学年で、生徒がこの8項目のどれに該当するかを意識して見ています。また、この8項目を生徒とも共有し、生徒からの立候補も受け付けています。こうした候補の中から、検討会でキャリアエリートが選ばれます」
キャリア検討会は、1年生の12月と2年生の10月に実施され、2回目ではキャリアエリートの入れ替えも起こるが、いずれも選ばれた生徒にはメンターの教員が1~2人つく。
「推薦入試の指導は大変ですので、1人の先生が複数の生徒のメンターになることはなく、1人の生徒を担当します。まず大事にしているのは、生徒の志向に合った外部の人材を紹介する『人つなぎ』。これは、推薦入試で外部の評価が重視されているためであることと、活動的ではない子を解放することを狙いとしてやっています。逆に活動的な子は、活動にばかり夢中になって言語化や学問に落とし込む力が弱いことも多いので、メタ認知を目的に『本つなぎ』にも力を入れています。具体的には、生徒に社会課題に直結する資本主義、民主主義、哲学の関連本を読ませて対話し、生徒のモチベーションを高めていきます」
そのほか、出願書類の確認や研究、集団討論、入試手続き支援など、入試に向けた支援は、担任ではなく、メンターが一貫して伴走していくという。
職員室で「生徒の悪口」が出なくなった
こうしたキャリア検討会を軸とした学校改革の結果、生徒たちは主体的に活動するようになったというが、ほかにどのような変化が見られたのか。
「昔は偏差値が高い生徒が王様であるかのような雰囲気がありましたが、今は入学と同時にキャリア検討会の話をしますし、生徒は偏差値とは異なる別の視点でリスペクトされる道ができたと言えます」
実際、キャリア検討会によって、難関国立大学や私立大学への総合型選抜・学校推薦型の合格者を20名以上輩出する年度が増えた。
「まだまだ入試にキャリア検討会の成果が表れているとは言えませんが、大学で起業するなど卒業後に活躍する例も増えています。全国の大学に卒業生を送り込み、生徒たちが10年後をイメージできるようなロールモデルを増やすという目標は、着々と実現されていると感じています。
また、大学に入れば、硬質な文章をしっかり読んで、言語化していくことが基本となります。その際、偏差値は役立ちません。むろんある程度の学力は必要ですが、偏差値と大学教育の内容にはあまり相関関係はなく、長期的には推薦入試の準備で身に付ける力のほうが重要ではないでしょうか」