「円高が来る」理論的根拠を深掘りして見えたこと 円高を示す「購買力平価」、財のみだと円安を示唆

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確かに、サービス取引の国際化が隆盛を極めてくれば、労働移動を通じた裁定も今までよりは働きやすいかもしれない。筆者がこれまで「新時代の赤字」と呼んできたデジタル、コンサルティング、研究開発といった分野では今後もサービス貿易額が増えそうだ。必然、実体経済への影響力も大きくなろう。

実際、日本でもIT業界やコンサルティング業界などは外資系企業の相対的に高い賃金が話題になりやすい。それは昔からあった話だが、近年そして未来に向けて影響を拡大していく可能性はある。

とはいえ、サービス取引国際化の象徴としてデジタル関連収支を取り上げると、「小作人」と揶揄される側(日本)の賃金が「地主」と呼ばれる側(アメリカ)のそれに接近する展開はやはり難しいように思える。少なくともICT産業に限って言えば、賃金格差は縮小するどころか、拡大する可能性すらある。コンサルティングや研究開発といったその他業界でも同様だろう。

とすれば、サービス業の賃金格差から導出されるサービス購買力平価が円高傾向を正当化する状況はやはり残るのだろう。それは購買力平価全体を円高方向に押し上げることになる。

「弱い円」は「財の購買力平価」に沿っている

筆者は、近年におけるドル/円相場の円安傾向は「財の購買力平価」の示唆する方向感や水準感に寄り添った動きではないかと考えている。

しかし、一般的に実勢相場と購買力平価を比較しようとした場合、サービス業も含めた購買力平価を見るため、どうしても実勢相場との大きな乖離が可視化されてしまう。

その乖離を見て「いずれ円高に戻る」と論じても、それは不毛な議論ではないかと思う。国際的な裁定を前提とした「財の購買力平価」における円安傾向こそ、「弱い円の正体」の一角をなしていると考えるべきではないか。

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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