「円高が来る」理論的根拠を深掘りして見えたこと 円高を示す「購買力平価」、財のみだと円安を示唆

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かねて日本では「製造業の国際競争力の強さが円高の原因」と言われてきた。これは「バラッサ・サミュエルソン効果」と言われる考え方に沿った解釈である。

バラッサ・サミュエルソン効果では、製造業の生産性上昇率がサービス業のそれに比べて十分に高い経済であれば、当該国の一般物価の水準が海外よりも高くなると考えられる。

生産性の高い製造業の賃金が押し上げられれば、国内の労働移動を通じて、サービス業の賃金も同じくらい押し上げられるという想定である(製造業とサービス業の賃金の乖離が放置されるはずがないという前提に基づいている)。

一般物価の水準が高くなれば実質為替レートも上昇する。実際、1990年代半ばまで日本の実質実効為替レート(REER)は上昇一辺倒だった。

1950年頃から1990年代半ばまでの実質実効為替レート上昇はバラッサ・サミュエルソン効果で説明可能である。その後、1990年代後半から足元に至るまで、実質実効為替レートは凋落の一途を辿っている。

日本の貿易黒字がピーク(約14兆円)を迎えたのが1998年なので、バラッサ・サミュエルソン効果が一巡したのが同時期だったのだと想像がつく。

弱いのは「日本の製造業の国際競争力」ではない

バラッサ・サミュエルソン効果に基づき「製造業の国際競争力の強さが円高の原因」という考え方が事実とすれば、「製造業の国際競争力の弱さが円安の原因」という事実も浮かび上がる。ここではさしずめバラッサ・サミュエルソン効果の巻き戻し、「逆バラッサ・サミュエルソン効果」という言葉が想起される。

ただし、「製造業の国際競争力の弱さ」というよりも「製造業の輸出拠点としての弱さ」という微妙な表現の違いを意識したいところだ。

というのも、日本の製造業は儲かっていないわけではない。例えば東証プライム市場に上場する製造業の純利益は2024年3月期には過去最高益を記録している。日本の製造業を語るうえでの現実的な問題は「国際競争力の弱さ」というよりも「日本国内における輸出パワーの衰え」である。

長引く円安相場について「製造業の輸出拠点としての弱さが円安の原因」と言われれば、比較的腑に落ちる向きは多いのではないか。

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