「負けた女子ボクサー」本国で批判が起きた顛末 アルジェリアのケリフ選手との対戦をめぐって

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LGBTQ問題やダイバーシティ問題にセンシティブで、リベラルな若い世代は、テストステロン(男性ホルモンの一種で筋肉や骨の成長を促進する)の量が基準値より多いとか、XY染色体があるかどうかは問題にしていない。女性の身体を持って生まれて女性として育ち、女性ボクサーとしてキャリアを積んできたケリフ選手を周りがとやかく言うなんて馬鹿げている、というわけだ。

だがケリフ選手を中傷する人々の中には「自称女性」が女子選手として戦うのは公平ではないという論調が目立った。国際ボクシング協会(IBA)が検査内容などを明らかにしないまま「ケリフ選手と台湾の林選手はXY染色体を持っている」と発表したことを鵜呑みにしてのことだ。XYの染色体があるなら男性なんじゃないか!という世間の声に対して、性分化疾患(DSD)について詳しい小児科医の堀川玲子氏がABEMA Primeでとても参考になることを言っている。

(動画:ABEMA Prime #アベプラ【公式】/YouTube)

性分化疾患というのは、身体の性に関わる部分が非典型的になる疾患ということだ。その「非典型」の形は400種類にも及び、その中の一つとして、XY染色体を持っているけれど外性器などは全て女性形、だから女性として分類されるケースがある、というのだ。日本小児内分泌学会のサイトにも同じように説明されている。

つまり今回問題になったケリフ選手は、生まれたときから女性として育ち、パスポートも女性だというのだから、もしも本当にXY染色体を持っているというならこのケースに該当するのかもしれない。

しかしどちらにせよ、染色体のことだけで男だ女だと決めつけ、2種類に分類するのは、人間の、生物の多様性=ダイバーシティを認めない、標準から外れる人を差別することにつながるということを、若者層はよく知っている。そもそも他人のジェンダー問題を当事者抜きに議論したり中傷すべきではないことも。

人間はみな、それぞれ違う。それを覚悟で世界の舞台を目指し、切磋琢磨するから、見る人の感動を誘うのだ。ケリフ選手の筋肉量が多少多いから不公平だというなら、生まれたときから高い身長や立派な体格に恵まれた欧米人や、ジャンプ力など身体能力がずば抜けて高いアフリカ勢の選手たちは「不公平」じゃないのだろうか。 

議論の核心にあるくだらない問題

イタリアでカリニ選手に批判が集まったのは、実は、ダイバーシティに対する問題だけが理由ではない。この議論の核心には、ロシアのオリガルヒ、ウマル・クレムレフ氏が会長を務める国際ボクシング協会と、IOC国際オリンピック協会の確執があって、お互いに嫌がらせをしていたらしいという、なんともくだらない問題があったというのだ。

その報道が出たことで、ケリフ選手を応援する声は激増した。なぜならこの議論を引き起こしたのは、イタリアの副首相マッテオ・サルヴィーニが「我が国の選手が男と戦う!」と試合の数日前から騒ぎ出したせいだとわかったからだ。サルヴィーニといえばプーチン大好きのロシア派として知られていて、ボクシング協会の会長がオルガリヒであることを考えると、さもありなんだ。

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