また、構想段階で頓挫したが故・坂本幸雄が社長を務めていた日本ファウンドリー(NFI)は千葉県館山に月産4万枚(投資額3000億円)のラインを構築し、50%は親会社のUMCが残り50%を日本ユーザー5社が各300億円出資するなどの動きもあった。
ウェーハ口径300mm化はもうひとつ別の動きを巻き起こした。それは半導体製造装置のシェア変化である。ウェーハ大口径化のタイミングで製造装置はコンセプトを含めたプラットフォームの変更を行うことが多く、その開発の成否で変化が起きることがある。
特に露光装置はその結果が顕著であり、「生産性向上」のために内部に2つのウェーハステージを搭載したASMLは大きく躍進し、そのユーザーであるTSMCの生産性向上に大きく寄与した。もともとは弱者連合でもあったTSMC-ASMLが300mm化によって強者連合に変化したのである。
顧客サポート徹底で気づけばTSMC「アリ地獄」
そのほかTSMC躍進の理由として挙げられるのはユーザー(顧客)サポートの充実である。半導体などの設計に使うEDA(Electronic Design Automation)ツールのベンダーであるシノプシス(Synopsys)やケイデンス(Cadence)などとのパートナーシップの深化とデザインツールの拡充がそれに当たる。
それまで提供していた半導体の設計に必要な情報をまとめたPDK(Process Design Kit)に加え、より簡単に設計できるための文書やソフトウェアを揃えたリファレンスフロー(図3参照)を2001年に初めて公開して以来、CoWoSや3DICなどのパッケージング技術も追加しながら、その内容を拡充し続けている。
つまりTSMCは「生産性向上」を突き進みながら、ユーザーへの手厚いサポートを拡大したことにより、顧客が抜け出したくても抜け出せないTSMCアリ地獄を構築したのである。また、2020年以降はEUV露光装置を使用した先端プロセスノードでも世界最先端を走り、今の確固たる地位を築いたのだ。
一方、日本では2001年から2002年に生産開始したTTI、ソニー、エルピーダから遅れて、東芝、NEC、富士通、パナソニックなどが2004年から2005年に横並びで「システムLSI」を合言葉に300mm工場建設し生産を開始した。しかし、生産量は月産1万枚程度であり、2004年時点で月産18万枚(300mm換算)となり、「生産性向上」を突き進めたTSMCのコスト競争力にはかなわなかった。
東芝、NEC、日立、富士通などの日本の半導体メーカが出資した半導体先端テクノロジーズ(Selete)があったつくば産総研の最寄り駅、荒川沖駅近くのスナックで「TSMCにお願いすると自社より安くできるから自社工場は需給のバッファで使うしかないんだよ」、「300mm工場作れないのは悔しいが、工場作ってもキャパを埋めるだけのデバイスがないんだよね」と出向者数人と話をしていた2001年頃が忘れられない。
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