税と社会保障の抜本改革 西沢和彦著 ~必要な改革を包括的かつ具体的に論じる

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高齢者医療の支出増加に、こうした保険料未払い増加も加わり、運営の厳しくなった国民健康保険は、国庫からの資金投入だけでなく企業の運営する健康保険組合からの資金移転にも頼っている。社会保障を税ではなく社会保険料で運営していたのは、受益と負担を明確にするためだったはずだが、国費だけでなく制度間の資金移転にも頼るなど、受益と負担の関係は希薄化し、規律も十分働いていない。

本書は、所得再分配の役割については税への集約を提案するが、その際の手段となるのが、給付付き税額控除である。たとえば、低所得者に給付が行われることで、社会保険料の支払いで貧困に陥ることが回避できる。評者は、社会保障の財源として、将来的に20%程度までの消費税引き上げはやむをえないと考えているが、その際、生活必需品を非課税にするのではなく、給付付き税額控除を使った税還付が逆進性緩和の有効な手段になると考えている。

税と社会保険料を一体的に扱うため、所得情報の一元的な捕捉管理も不可欠となる。そのためのインフラ整備として、本書は番号制導入だけでなく、国税庁と市町村の税務行政を統合する歳入庁構想なども論じている。必要な改革を包括的かつ具体的に論じた好著である。

にしざわ・かずひこ
日本総合研究所調査部主任研究員。1965年東京都生まれ。一橋大学社会学部卒業、三井銀行(現三井住友銀行)入行。法政大学修士(経済学)。2006年より社会保障審議会年金部会委員。09年より日本年金機構評価部会委員。

日本経済新聞出版社 2100円 351ページ

  

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