なぜ変わらない、教員に残業代出ない「給特法はおかしい」廃止を阻む5つの難点 中教審、教職調整額「月給の4%から10%以上」提案

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こうした難しさはありつつも、明らかに業務と言える時間外の仕事も多く、そこだけでも時間外業務として認めていくことは可能だ。微妙なものも、授業や学校運営に密接に関わると校長が判断できるのなら時間外業務としていけばよい。

【論点②】残業代支給は、残業抑制に効果的か

次に、給特法廃止論の2つ目の論拠、使用者のコスト意識を高めることで時間外業務の抑制につながるのかについて、考えよう。逆に言えば、給特法を維持すると、教育委員会や校長のコスト意識が希薄になるということだが、確かにその側面はある。

例えば、プールの水を出しっぱなしにして水道代を浪費させたとして、教員に賠償責任を負わせた自治体がここ数年で複数ある。税金の無駄遣いは問題だが、そもそも、プールの水質や温度、水量の管理は、教員の仕事なのだろうか。

少なくとも教員の専門性とは関係ない。教員以外の組織や人にアウトソーシングして、教員には、授業や子どものケアのほうに集中してもらったほうが理にかなっている。だが、給特法のもとでは、教員の仕事が少々増えても、残業代が増えるわけではないので、教育委員会は教員にやらせようとしやすい。

アウトソーシングするとなると、教育委員会は渋い顔をする財政当局を説得して予算獲得していくために、そうとうな労力を要するが、教員にやってもらっているうちはお手軽だ。

同様に、小中学校にはGIGAスクール構想により児童生徒1人1台の端末が整備されたが、端末の初期設定や更新作業、故障した場合の業者との調整などを教員に担わせている自治体は少なくない(ICT支援員の派遣など支援策を講じていても、訪問頻度などが十分ではない場合が多い)。

ある大きな市では、当時、数百人分のPCの箱を開ける作業から教員がやっていた。これらも、別途業者委託などすれば追加予算がかかるものの、教員がやってくれているうちはタダだ。

少し脱線するが、こうした教育委員会の予算獲得不足と陸続きの問題として、保護者負担の重さやPTAへの肩代わりがある。体育館の垂れ幕(どん帳)がPTA寄贈となっている学校は多いが、本来、学校の施設や備品は、設置者である教育委員会が予算をとって整備するのが筋であり、保護者に転嫁するべきではない(保護者は多くの場合、その自治体の納税者でもあるのだから、二重払いとも言える)。

少し前に名古屋市で、学校のクーラーなどをPTAが買って寄付していたことが問題視されたが、似た問題は名古屋市以外にもたくさんある。給特法だけのせいではないかもしれないが、教育行政と学校のコスト意識のなさは、考えていくべきだ。

話を戻すと、残業代を出すようになると、教育委員会には多額の予算が必要となるので、それなら業務を減らしたり、教員以外にアウトソーシングしたりすることが増えるのではないか。それが給特法廃止論の主張であり、うなずける。

ただし、市区町村立学校の場合、県費負担教職員制度と呼ばれる制度で、残業代を含む給与は都道府県が負担している(政令市は政令市自身が負担)。市区町村は自分の財布は痛まないので、時間外の抑制に本格的に動くかは疑問、という話が中教審でも出た。とはいえ、市区町村が都道府県の指導や働きかけをまったく無視できるとも考えにくい。

より問題なのは、残業代の支給には時間外業務抑制への逆効果もあることだ。給特法を廃止した場合、4%の教職調整額はなくなるだろう。

「調整額を含む現在の給与水準は全員に維持しつつ、残業代支給も可能とすればよい」と主張する論者もいるが、そんな巨額の財政支出を財務省や各都道府県等の財政部局が認めるとは想定しにくい。つまり、残業をしないと給与ダウンとなる。だから、一部の教員は、生活給の一部ともなる残業代欲しさに、働けるうちは働こうとする。

この問題は、「監督者である校長が、必要性の高い時間外業務なのかどうか管理、モニタリングして指導するのだから、必要性の低いことで、だらだら残業するようなことはない」との反論もあろう。

これは「論点①時間外業務かどうかの線引きができるか」にも関連するが、校長による管理、指導がどこまで有効に進むかは未知数だ。現実には、時間外が多い教員の状況を追認するような運用となる学校も多くなるかもしれない。

【論点③】校長の過剰な干渉で教員の裁量や自主性が狭まらないか

関連して、給特法を廃止した場合、都道府県・政令市(給与負担者)が残業代として出せる予算は当然、青天井ではない。そのため都道府県教委と市区町村教委は、各学校に時間外業務を抑制するよう、強く要請するようになるだろう。

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