「外国人だらけの観光地」がGWやけに報じられる訳 なぜオーバーツーリズムがこれだけ扱われるのか

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日ごろから情報番組が重視しているのは、視聴者に寄り添うような切り口を選んで放送すること。かつてのような開放感のあるゴールデンウィークなら、人気のスポットや空港、ターミナル駅、サービスエリアなどと中継で結び、インタビューで楽しげな声を拾うなど、ポジティブなムードで放送するでしょう。また、渋滞や行列などの一見ネガティブな情報も、当事者の苦労を伝えつつ、笑いを交えてなごやかなムードでリポートするのが定番で、これは自宅でテレビを見ている視聴者への配慮でした。

しかし、今年のような物価高や円安の影響をもろに受けて閉塞感のあるゴールデンウィークで求められるのは、視聴者にとってガス抜きになるような切り口。「円安の影響で国内の観光地はにぎわっている」というポジティブな切り口ではなく、「地元住民はオーバーツーリズムに困惑している」というネガティブな切り口が採用されやすくなります。

「出かけなくてよかった」の安堵

とりわけ「海外旅行などの大型連休らしい遠出を我慢した」という人は、物価高や円安、引いては賃金が上がらないことなどへの不満を抱えているため、フィットするのは具体的な問題点をあげる構成・演出。

たとえば、各番組で「国土交通省は混雑緩和のため、江ノ島電鉄の鎌倉駅―長谷駅間の徒歩移動を呼びかけ、鎌倉駅周辺に誘導員を配置し、地図を配っている」というニュースが頻繁に扱われています。

先日の「Nスタ」では、「混みすぎてスマホの電波が入らない」「満員で江ノ電から全く景色が見えなかったよ」「普段の週末でも人が多い。今年は恐怖」というSNSに書き込まれた悲鳴のような声を紹介していました。

もちろん問題提起という意味合いはあるものの、制作サイドとしては「自分はこの人たちより、まだいいほうかもしれない」というホッとした気持ちにさせたいところもあるものです。

一方、裏番組の「news every.」では、江ノ島電鉄だけでなく、京都市の路線バスもピックアップ。「外国人を中心に観光客が増えたことで地元住民が乗れない」という事態が発生していることを紹介しました。また、京都市交通局が主要観光地を結ぶ観光特急バスの休日限定運行を決定したものの、スタートは6月でゴールデンウィークには間に合わないという情報も、自宅に留まる視聴者に「出かけなくてよかった」と思わせられるものです。

その他の番組でも、オーバーツーリズムの弊害として、国内ホテルの宿泊料金がインバウンドの影響で高騰していることや、ゴミや騒音、道路横断などの交通ルール違反、私有地への不法侵入、環境破壊などをストレートにピックアップ。「地元のキャパシティを超えた観光客が押し寄せる」ことの危うさや、「地元住民の生活を守らなければいけない」という状況をわかりやすく伝えていました。

このように外国人観光客で混雑する観光スポットの映像をたっぷり見せて、自分の現状を肯定してもらうことは重要なポイントの1つ。これまではその象徴が渋滞の映像でしたが、今年はオーバーツーリズムの映像に変わった感があるのです。

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