幸い、日本では国民皆保険という社会保障制度の存在により、高価な治療であっても、貧困のために医療が受けられないことは、原則ない。生活保護などのセーフティネットもある。
ただ、制度の利用申請から支給までのタイムラグで、一時的にお金のやりくりが難しくなったり、働く時間が短くなって収入が減ったりすることは考えられる。忘れてはならないのが、家賃や教育費など。これはがんにかかろうが関係なく、毎月、引き落とされていく。
このように、がんと診断されたことや治療に伴う患者・家族の経済的負担を、昨今はがんの「経済毒性」と呼んでいる。
「実は、医師も患者さんの医療費についてはわかっていないことが多い。患者さん側からお金の話はしにくいかもしれませんが、高額療養費制度やさまざまなサポートが利用できます。大事なのは治療の継続ですから、そのためにも医師や看護師、がん相談支援センターに相談してほしい」(本多さん)
「がんになる=迷惑をかける」ではない
国民の2人に1人ががんになる時代。読者のまわりにも、仕事を続けているがんサバイバーはいるかもしれない。
がんになっても働く――。もちろんがんの種類や進行度、受けている治療によっても変わってくるが、その前提は持っておきたいところだ。
仕事を続けたほうがいい理由の1つは、これまで紹介してきた「治療費」の側面があるが、それだけではない。仕事を続けることによってやりがいや、生きる気力、病気のことを頭から一度、忘れるといった側面もある。
一般社団法人「がんと働く応援団」共同代表理事の吉田ゆりさんは、自身も卵巣がんのサバイバーだ。「がんにかかったからといって、周囲に迷惑がかかるということではない。『申しわけない』ではなく、がんというライフイベントを経験したからこその強みを生かしてほしい」と強調する。
「確かに、がんになることはショッキングなことですが、どうやったら働けるかを考えながら、新しい働き方を作っていく。多様な働き方を職場に根付かせる使者として活躍し続けていただきたい」
コロナ禍の4年間でリモートワークが普及したことも、がんサバイバーの就労に追い風となっている。ハード、ソフト両面が充実し、職種によっては、出勤しなくとも業務を行うことが可能になったからだ。
自宅で仕事ができれば、その日の体調に応じて横になることも可能で、がん治療を続けながら働くには有利な状況だ。
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