新型やくも、JR西が仕掛けたもう1つのサプライズ 沿線の駅に新たなラウンジ、デザインの秘密
営業運転開始前の3月23日、報道関係者向けの試乗会が開催された。実際に乗車してみると、381系に比べて確かに乗り心地がよい。381系ではカーブ区間では通路を立って歩けないほど揺れていたし、座っていても細かい振動が気になった。しかし、273系は座っていても立っていても揺れが少ないと感じる。たとえて言えば新幹線のような乗り心地だ。
客室内のデザインも381系と273系ではまったく違う。やや暗い色彩の381系に対し、273系の普通車シートは緑と青を基調としており、明るく開放感がある。2人用と4人用のボックス席からなるセミコンパート席は座面をスライドさせるとフラットシートになるので、足を伸ばしたり、小さな子供を遊ばせたりすることができる。まるで観光列車のようだ。こうした非日常感も心理的な快適性向上に一役買っているのだろう。
273系のデザインを手がけたのは建築家の川西康之氏。JR西日本では「WEST EXPRESS(ウエストエクスプレス)銀河」などのデザインで実績がある。「381系では寝ている乗客が多かった。273系では乗客が目を見開き、車内を歩き回るようにしたい」と意気込む。
駅に「やくもラウンジ」設置の狙い
新型やくもの運行開始に合わせ、JR西日本はもう1つの仕掛けを行った。米子駅と出雲市駅に「やくもラウンジ」という待合室を設置したのだ。
米子駅は2023年7月にリニューアルされ、新駅舎と駅ビルが開業した。やくもラウンジは新駅舎の2階にある。室内には地元山陰の木材を使用した椅子、テーブル、インテリアが設置されている。これらの木材は米子駅の駅舎でも要所要所に用いられており、たとえば駅の南北を結ぶ自由通路の中央に置かれたベンチ、トイレ前のモニュメントなどにも使われている。
ベンチやモニュメントの制作を担当した多林製作所代表の多林一心氏は「木製の家具を公共の場所で使用する際は、どうやって維持するかが重要」と話す。確かに自由通路のベンチは多くの人が利用しているせいか、すでに汚れや傷が目立つ。磨いても汚れや傷が取れない場合は表面を薄く削るしかないという。
多林氏が手がけた家具はやくもラウンジでも使われている。そのデザインは、新型やくもを連想させる。これらのデザインも川西氏によるものだ。座っているだけで楽しくなるようなデザインで、机にはコンセントが設置されているのもうれしい。出発までのひとときを快適に過ごせそうだ。
当初は通常の待合室となる予定だった。川西氏によれば、新型やくもの乗車体験は点と点を結ぶ線にすぎず、「点や線から面に広げよう」という発想から生まれたものだという。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら