阪神タイガース、長年の"お家騒動"の導火線とは 『虎の血 阪神タイガース、謎の老人監督』書評

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『虎の血 阪神タイガース、謎の老人監督』村瀬秀信 著
虎の血 阪神タイガース、謎の老人監督(村瀬秀信 著/集英社/1980円/320ページ)
[著者プロフィル]村瀬秀信(むらせ・ひでのぶ)/ノンフィクション作家。1975年生まれ。スポーツ、カルチャー、食などをテーマに広く執筆する。著書にプロ野球・ホエールズ&ベイスターズの歴史を総括した『4522敗の記憶』など。

常時12人しかいないプロ野球の監督は、理想の上司ランキングに名前が挙がるほど注目度が高い。だが、1955年の大阪(現阪神)タイガースで突如指揮官となった人物を記憶する人は多くないだろう。男性平均寿命が63.6歳の時代に60歳で監督(第8代)に就任、プロ野球選手としての経験を持たず、わずか33試合で事実上の解任へ追い込まれた岸一郎である。

抜擢人事と急転直下の解任劇──。「猛虎史に残る最大のミステリー」の背景に何があったのか。当時若手選手だった吉田義男、小山正明、ライバル球団・巨人のOBである広岡達朗らの証言や、岸の故郷、敦賀(福井県)に著者が足を運んで書きためた取材メモから、不可解な人事の謎と岸の実像を解き明かす。

「捨て石」の役回り

大学野球の名門、早稲田大学でエース左腕として活躍し、満州リーグでもプレーした岸が、アマチュア球界のエリートだったことは間違いない。しかし、引退後は故郷で隠居生活を送り、30年近くもブランクがあった。

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