ロシア語で橋を意味する「MOCT」。この言葉をタイトルとする本書は、ソ連の国営ラジオ局・モスクワ放送の日本向け放送に携わった人々の証言で構成される、取材の記録だ。当時、社会主義陣営を率いる超大国・ソ連から届けられた、日本人のアナウンスによる声。それは「架け橋」だったのか。それとも国策の宣伝か。冷戦下では、素直に渡るのが難しい橋だったことは言うまでもない。
物語は1970年代前半、長髪にジーンズでギターケースを抱えてモスクワ入りした25歳の青年が、ビートルズ「バック・イン・ザ・U.S.S.R」(ソ連に帰還)を番組内で流してしまう話から始まる。デタント(緊張緩和)の時代とはいえ、西側のロック音楽が御法度とされていたソ連にあっては、物議を醸しかねない危険な選曲だった。
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