「子どもの体力低下」数値に一喜一憂するより、重視すべき「身体不活動」 コロナ禍で貴重な継続データが途絶える恐れも

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2018年の国際調査でも「国を代表する日常生活全般の身体活動量」が示せなかったのは、49カ国のうち、日本とボツワナだけだったという。そこで田中氏らが妥当性を確認した国際的な質問票を用いて、笹川スポーツ財団が日本でも全国調査を行った。その結果、日本の子どももやはり8割が身体不活動状態にあることが見えてきた。だがこの調査にも限界がある。国の調査のように都道府県別に調べることができず、継続性も不透明なのだそうだ。

「質問内容次第で結果も変わってしまう」継続調査の重要性

コロナ禍と前後して1人1台端末が行き渡り、PCやスマートフォンを含む「スクリーンタイム」が増えたことも、日本の子どもの身体不活動に影響しているだろう。スクリーンタイムについてはスポーツ庁の詳細な調査データがあるが、こちらの見方にも注意が必要だと田中氏は説明する。

「調査項目の質問内容が頻繁に変更されているので、それによって結果も大きく変わってくるのです。2017年度の質問では月~金の平日と土日を分けて『どれぐらい画面を見ているか』を尋ねていたのが、2018年度以降は平日のみの質問になりました。また2019年度は『学校以外で』としていた部分を、2021年度は『学習以外で』とするなどの変更も。子どもたちが真面目に答えてくれるほど、データの中身は変わってきますよね。

もちろん全体としてスクリーンタイムが増えていることに間違いはなく、それが身体活動量にも影響しているでしょうが、表面的な数値だけでなく、こうした点の統一も、データを蓄積するうえでは大切な要素だと思うのです」

田中氏は詳細な調査を続け、データを取り続けることの重要性を繰り返す。

「通学のデータなどは非常に重要なものですが、コロナ禍前を最後に調査がストップしたことで、このままなくなってしまうのではとも危惧しています。広範囲のデータを、継続的に丁寧に収集することは、子どもだけでなく大人にとっても大事なことなのです」

田中氏らが目指すのは、子どもだけでなく国全体の健康意識の底上げだ。身体不活動は、世界保健機関(WHO)によれば死亡危険因子のワースト4位となっている。子どもへの働きかけによって大人の行動も変わり、国民の身体活動量を上げることができる――と同氏は考える。

「2012年度には、より早い段階での活動を促そうと、『幼児期運動指針』が示されました。幼児期ももちろんですが、子どもが身体を動かす習慣を形成するには、学校だけでなく家庭の力も必要です。小学生以上の子どもがいる家庭でも、一緒にサイクリングしたり買い物や犬の散歩で歩いてみたり、大人も意識して子どもと身体を動かしてほしいですね。これは家族間のコミュニケーションにもつながるはずです」

そのためには身体を動かしたくなるまちづくりや、体育嫌いにさせない教育も必要だと田中氏は語る。

「いきなり社会全体や個人の行動を変えることは難しいと思いますが、まずは身体活動の意味や重要性を知ってもらうために、私たち専門家が適切な資料を集め、データを取り、現状を社会に広く知らせることが重要だと考えています」

(文:鈴木絢子、注記のない写真:マハロ / PIXTA)

東洋経済education × ICT編集部

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小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。

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