「ずっと面白い」ジュディ・オングが魅せる輝き 「魅せられて」で知られる歌手のインタビュー
作詞家の橋本淳さんが筒美京平さんを推薦し、コンビを組んでたくさんのヒットを出した仲良しですが、ある日2人はレコーディングのミックス室で「これね、橋本さんの奥さんのホームメイドケーキ、美味しいな」と言って和やかでした。筒美先生は世界にたった1つのモノが好きでした。カシミアのベストなど質が良くて着心地のいい服を、居心地のいい状態でカジュアルに着ている、それが曲にもよく表れていました。
「魅せられて」は本当に難しい曲だった
「魅せられて」は、筒美さんに書いていただいた2曲目ですが、本当に難しい曲です。音の幅が広いのもありますが、何より「ノリ」が難しい。冒頭は「南に向いてる窓をあけ」で始まり、「Wind is blowing from the Aegean」でぶわっと横ノリになります。筒美さんが隣に来て、「そこで急にね、海が横にひらけるみたいなんだよ」と。
ちょっと私のテンポが遅くなると、普通ならスタジオインカムで指示を受けますが、筒美さんはスタジオに直接入ってきて「大丈夫だよ」と肩を叩いてくれてから、「ここはサンバのノリ、タン・ツータターン、タン・ツー・タターン 好きな男の~」と横で手を叩いて聞かせてくれました。すると身体のなかにリズムがフワッと入ってきました。素晴らしく教え上手でした。
――バート・バカラックにポール・モーリアなど、西洋の音楽が見事にジュディさんのためのオーダーメイドになっています。しかし改めて聴くと、台湾にルーツをもつジュディさんが歌っているからか、台湾で広く信仰を集める航海の守り神「媽祖様」も連想します。
そういわれると、確かにそんな気もしてきます。(出身地の)台南には、台湾で最も古い媽祖廟もあります。「魅せられて」を作詞した阿木燿子さんが当時それを意識されていたかはわかりません。
ただ、阿木さんは「魅せられて」のような大人の女性の歌からキャンディーズの「春一番」までさまざまな世界を持っている素敵な女性です。私を見た時に「ちょっと正直なこと言っちゃおうかな、というようなイタズラっぽい女性で、でも女は海なのよ、わかる? 男の子?――みたいな感じにしましょう」と話していました。
――生々しい感情の主導権を握るような?
ちょうどあの時代は「OL」(オフィスレディ)って言葉が流行りました。収入がちゃんとあり、「自分のモノは自分で買う」という自立した女性の時代に入りました。女性のあり方がみるみる変化していた時代の歌ですね。
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