「ずっと面白い」ジュディ・オングが魅せる輝き 「魅せられて」で知られる歌手のインタビュー
――版画を始めて約50年ですが、数ある絵画表現のなかでもなぜ「木版画」なのでしょうか。
子どもの頃から水彩、油絵と多様な技法に触れてきました。20代の時に白黒の木版画の個展を見に行こうと誘われました。民芸調の伝統的なものを想像していたら、白黒をそれぞれ反転させたポピーの花の作品があり、そのモダンさに衝撃を受けました。
そして白黒にもかかわらず、私の大好きなポピーの強烈な「赤色」を感じさせる。これが人の想像をかき立てる絵の力だと感激しました。そこにちょうど作者の井上勝江先生がいました。
ジュディ・オングさんも一度は断られた弟子入り
――その場で弟子入りしたのですか。
それが断られました。当時も歌にお芝居にと駆け回っていましたから、井上先生には「ジュディさんは忙しすぎて無理よ」と言われました。ただ、私は断られたら余計にやりたくなる性分です。
帰宅して、すぐに兄の彫刻刀を借りて椿の花を彫り、スリッパで刷って先生の個展会場に持っていきました。日展の有名な彫刻家である長沼孝三先生もいらしゃって、「この子は頑固だよ。情熱いっぱいだしモノになるんじゃないの」と助け舟を出してもらい、ようやく弟子入りが叶いました。まるで三国志に登場する劉玄徳と諸葛孔明のような井上勝江先生との出会いでした。
――ジュディさんの版画には、特に余白の美しさを感じます。題材にする場所をどう選んでいますか?
私の余白は太陽の光です。緑の木々でも、葉の白は太陽の光をうけた部分。その境目にあるグレーによって、余白が生きてきます。場所を決めるポイントは「惚れる」ことです。例えば、今はもう取り壊されてしまった名古屋の料亭「稲本」は見た瞬間、恋に落ちたように動けなくなりました。
私の絵は私の理想の場を描いたものです。その素敵な場所で、友人とお茶を飲みながらお喋りしたり、飴をなめながらリラックスしたいという私自身の夢が詰まっています。それを観た皆さんにも、安らぎや風に揺れる樹々の葉のそよぎを感じてほしい。
「雨過苔清」という作品は、7月の雨季に一瞬だけ晴れたそのとき部屋にぱぁっと広がった苔の匂い、透き通った御簾をぬける風、部屋の中の漆塗りの机のうえに反射する庭の緑を封じ込めました。見る人1人ひとりが体験したことのある、似たような情景の記憶を喚起できればと願っています。
――今回の台湾での展覧会では台南の風景も出品されています。影の濃さに台南の太陽を思い出します。
「台南古邸」、黄崑虎家の古い200年歴史のある家でランタンの形の彫刻などが全て木で出来た素晴らしい建築です。屋根の部分が白く残してありますが、これは台南の太陽の輝きです。
六角形の柱や窓はオランダ風で、台湾文化がさまざまな文化の影響を受けたことを示しています。今年は台南府城の建城400年ですから、「台南の娘」としては台南で個展を開催できたことが本当に嬉しかったですね。
――お父様(翁炳榮)、お祖父様(翁俊明)について聞かせてください。
父方は鄭成功の軍医として台南に来た医者の家系ですが、金融システムを作って台南の活性化もしました。また、祖父の時代からは台湾と中国のアモイ、上海に病院を持って行き来していました。
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