「甘えとの違いは?」今さら聞けない合理的配慮、3つの疑問と学校での進め方 2024年4月に私立学校や企業においても義務化
例えば、今の授業は印刷された文字を読める子どもが受けることが前提になっています。音声で学ぶ、読みに障害のある子どもがいることは前提となっていません。そのため、教科書を読んで教育内容を学ぶことが難しい子は、教育内容にアクセスできません。その格差を、音声認識のアプリを使うなどして埋めるのが合理的配慮です。
まず取り組みたいのは「基礎的環境整備の充実」
合理的配慮の提供は2016年の障害者差別解消法により、公立の学校に義務付けられました。2024年4月には障害者差別解消法の改正により、私立の学校や企業にも義務付けられます。しかし、法律上は合理的配慮の提供は義務付けられているものの、実際に学校で進めていくうえでの困難さをよく聞きます。そこで、ここからはよくいただく3つの質問にお答えしていきたいと思います。
学校の先生から一番よくいただくご意見です。取り組みのポイントは、まず「基礎的環境整備の充実」を検討することです。基礎的環境整備とは、個別の合理的配慮を検討する以前に、多様な子どもがいることを前提として学校を設計しておくことです。国や都道府県、市区町村の教育委員会、そして学校単位や学級単位といった各レベルでできることがあります。
まず、国や教育委員会レベルでは、十分な人員配置、教材や研修の予算の確保、学校施設のバリアフリー化、学校をバックアップする専門家チームの用意、などがあります。学校はできないことまでやる必要はなく、限界があることについては国や教育委員会に声を上げていくことも大切です。
一方で、国や教育委員会の環境整備が充実していなくても、学校単位でできる環境整備もありますし、そのうえで合理的配慮を提供することはできます。まずは学校におけるさまざまな取り組み、例えば時間割、行事、生徒指導、評価、学校文化、教材教具、などについて、「多様な子どもが来ることが前提になっているか」を見直してみましょう。
「学校全体で取り組むポジティブな行動支援(スクールワイドPBS; Positive Behavior Support)」という手法を使い、学校全体の文化や生徒指導のあり方などを変えた学校もあります。そのほか、時間割を見直して放課後のゆとりを生み出した学校、通知表をなくした学校、子どもたちが1人ひとりのペースで学習を進める「自由進度学習」を推進している学校もあります。
こうした基礎的環境整備を進めることで、個別の支援が不要になる子どももたくさんいます。例えば、以前はノートの代わりに情報端末でメモを取りたいという子どもは、合理的配慮として個別に情報端末を持ち込む必要がありましたが、現在は1人1台端末が基礎的環境整備として用意されているのでその必要がありません。前述のスクールワイドPBSを推進している学校では、先生や子ども同士がポジティブな関わりをするようになったら、授業中に離席行動を繰り返していた子どもが離席をしなくなったそうです。
学級単位でできる基礎的環境整備もあります。例えば、学びのユニバーサルデザインに基づく授業づくり。ある学級では、歴史の年表を覚えるために、歌で覚えるブース、書いて覚えるブース、動作と共に覚えるブース、写真と結び付けて覚えるブースを作り、自分に合った覚え方を子どもが選択するという授業をしていました。