イスラエルの歴史家が予見「ハマス紛争」次の展開 1948年以降で最大の危機、和平の機会はあるか?

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実際、イスラエルの右派には、ハマスのほうがパレスティナ自治政府よりも与(くみ)しやすいと見る人が多かった。イスラエルのタカ派は、ヨルダン川西岸地区の支配の継続を願っており、平和協定の締結を恐れていたからだ。ハマスはイスラエルの右派に、願ってもない状況をもたらしてくれるように見えた。すなわち、ガザ地区を治める義務からイスラエルを解放し、しかも、ヨルダン川西岸地区のイスラエル支配を放棄させかねない和平の申し出をせずに済むという状況だ。だが、イスラエルが経験したばかりの恐怖の1日は、暴力的な共存というネタニヤフの実験の終わりを告げた。

和平プロセスにとどめを刺す可能性が高い

では、次はどうなるのか? 確かなことは誰にもわからないが、イスラエルでは、ガザ地区の再征服、あるいは砲爆撃による粉砕に傾く声も一部で上がっている。そのような政策をとれば、この地域に1948年以降最悪の人道的危機を招きうる。イスラム教シーア派民兵組織ヒズボラとヨルダン川西岸地区のパレスティナ人の勢力がこの争いに加わればなおさらで、死者の数は何千人にも達し、それに加えて何百万もの人が住まいを追われることになりかねない。フェンスの両側には、神の約束と1948年の戦争(訳注:第1次中東戦争)に固執する宗教的狂信者がいる。パレスティナ人は、あの戦争の結果を覆すことを夢見る。ベザレル・スモトリッチ財務相のようなユダヤ教の熱狂的信者は、イスラエルのアラブ系市民に対してさえ、「諸君は手違いによってここにいるのだ。なぜならベン=グリオン[イスラエルの初代首相]が48年にけりをつけそこなって、諸君を追い出さなかったからだ」と警告した。2023年は、両陣営の狂信者たちが自らの宗教的幻想を追い求め、1948年の戦争を徹底的に再現することを許しうる。

たとえ事態がそこまで極端な局面を迎えることがなかったとしても、今回の争いは、イスラエルとパレスティナの和平プロセスにとどめを刺す可能性が高い。ガザ地区との境界に沿ったキブツはみな、これまでずっと社会主義のコミューンであり、イスラエルの左派のとりわけ頑強な砦だった。ガザ地区からの何年にもわたるほぼ連日のロケット弾攻撃の後でさえ、カルト宗教にしがみつくように、依然として和平の希望に執着していたそれらのキブツの住民を、私は知っている。だが、そうしたキブツは、今や跡形もなくなった。そして、最後まで残っていた平和運動家たちの一部は、殺害されたか、愛する者たちを埋葬しているか、ガザ地区に連れ去られて人質にされているかのいずれかだ。たとえば、長年ガザ地区の病人をイスラエルの病院に搬送してきた、キブツ・ベエリの平和活動家ヴィヴィアン・シルヴァーは行方不明になっており、人質としてガザ地区に拘束されているらしい。

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