叱っても変わらない問題行動の背景に「トラウマ」、教員が知っておくべきこと 学校に必要なトラウマインフォームドケアとは

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トラウマを抱える子は、特定の場面が怖かったり、気持ちを上手に表現できなかったりするので、安心して発言できる学級づくりも重要です。先生がすべて決めて導くというより、先生も子どももお互いに人間としての感情を言えるような、セラピューティックな(回復しやすい)場にすることが大事です。

そもそも「先生を取り巻く環境」がトラウマティック

──保護者対応でもTICの視点は有効でしょうか。

保護者が怒鳴り込んできたときなども、「トラウマのメガネ」で見てみると、相手が不安で声が大きくなっていることに気づき、「どうされましたか。その点を不安に感じられたんですね」と落ち着いて対話できるようになります。ただし、要求が強い保護者に対し、「できないことはできない」と線を引くのは管理職の仕事です。

――ほかに管理職が心がけることはありますか。

子どもの安全感を高めるには、まず教員の安全感とチームづくりが不可欠ですので、職員室を安全な場にすることです。

そもそも今、先生方を取り巻く環境はトラウマティック。労働時間は長く、子どもや保護者の対応で傷つく場面は多いでしょうし、同僚や管理職に守ってもらえない、地域や社会が学校に敬意がないといった状況に苦しまれている先生も多いと思います。幼少期のトラウマがある先生は、同じようにつらい思いをしている子どもを支えたいと思う一方で、学校には子ども時代を思い出すきっかけがたくさんあり、過去の傷がうずくつらさもあるでしょう。

こうした中では、先生にもしばしばトラウマ反応が起こります。トラウマ反応は誰にでも起こることだと知ることで救われる先生もいるはずで、そのためにも先生がトラウマやTICの知識を持つこと、管理職が心理的に安全な職員室をつくることは重要になります。

ある小学校では、被虐待児が多く、教員がさまざまな苦労をして関わり、もう打つ手がないという状態でTICを取り入れました。まずは「職員室を先生の避難所にしよう」と決め、先生が抱えるしんどさや愚痴を職員室で話せるようにしたところ、トラブルを担任の力不足だと責めたりすることがなくなりました。

すぐに子どもの状態がよくなるわけではないですが、そういう職場に変われた学校は子どものよいところを見られるようになり、子どもの行動が前向きになっていくケースも。悩みを相談しにくる子が増えたというお話もよく聞きます。

管理職も孤立しがちなので、教員と対等な関係性を持つべきで、本来なら外部の専門家によるサポートが受けられるシステムも望まれます。学校が「安全で、相互に信頼できて、話し合える場」になるには、日本社会全体が「傷つきは恥ではない」と捉えられるようになることも必要だと思います。

(文:吉田渓、注記のない写真:Satoshi KOHNO/PIXTA)

東洋経済education × ICT編集部

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小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。

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