叱っても変わらない問題行動の背景に「トラウマ」、教員が知っておくべきこと 学校に必要なトラウマインフォームドケアとは

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家庭での性的虐待や身内以外からの性被害による性的トラウマにより、ほかの子に同じことをしたり性的な言動が増えたり、思春期以降に再び性被害に遭うような行動を取りやすくなることも。また、性的トラウマに限らずさまざまなトラウマは、とくに男児では他者への加害につながることがあります。

教員が「トラウマを抱える子の対応」で気をつけたいこと

──学校はTICに取り組むうえでどのようなことに注意するとよいのでしょうか。

教員の熱意や経験だけではトラウマの影響は見えないので、まずはトラウマやTICの知識を持つこと。知識が「メガネ」となり、子どもや保護者、教員自身の状態が見えやすくなって適切な支援を計画しやすくなるでしょう。

「トラウマのメガネ」を使うことが大切
(イメージ:Graphs/PIXTA)

私が関わった小学校では、みんなが楽しく過ごしている場で急に部屋を飛び出す子がいたのですが、担任の先生は「あの子は変わっているから」と言うだけでした。しかし、いろいろな方に話を聞くと、その子は以前、ほかの子に囲まれて下着を下ろされ、笑われるという性被害・いじめを経験していたことがわかりました。笑い声を聞くとつらくなるため、笑い声のある場にいられなくなってしまったのです。

それを指摘すると、担任の先生は「そんな昔のことで?」と驚いていました。しかし、それこそがトラウマなのです。その後、先生が「あなたのことを笑っているのではないよ」と伝えながら一緒に楽しい時間を重ねることで、この子はお楽しみ会などに参加できるようになりました。

ただ、TICは即効性のある支援技法ではなく、例えばトラウマに起因する万引きや性の問題行動などもすぐに変わるものではありません。先生は短期での子どもの成長を求められがちですが、変化には何年もかかることを理解したうえで、なぜ問題行動を起こしてしまうのかじっくり話を聞き、それをしなくて済む生活に変えていく支援を考えていただければと思います。

――トラウマによる過覚醒の状態は、発達障害(ADHD:注意欠如・多動症)の行動と似ている場合もありませんか。

発達障害とトラウマを併存している子も多く、見分けるのは難しいですね。特性のある子は育てにくかったり人間関係の構築が難しかったりする面もあり、虐待やいじめに遭いやすい傾向があるのでトラウマも抱えやすいのです。しかし大切なのは、見分けることよりも「その子に困り事や被害体験があるのでは」という視点で、いつどんな状況で落ち着きがなくなるのか、生活環境とともに見ていくことです。

──トラウマを抱えた子の対応ではどんな点に気をつけるべきでしょうか。

叱責や体罰で支配しようとするのは論外ですが、かといって、TICはその子の言いなりになることでもありません。学校でのルールを示しつつ対応に融通を利かせ、その子が変われるよう支援計画を立てましょう。

また、腫れ物に触るような対応もその子を傷つけます。トラウマを再度負わせるのは避けるべきですが、トラウマは千差万別で何がリマインダー(引き金)になるかはわかりませんし、誰しもコミュニケーションの失敗は起こりうるもの。「これがつらい」と言われたら、「そういうときにつらいんだね。次から気をつけるね。教えてくれてありがとう」と返す。大切なのは、コミュニケーションを絶たないことです。

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