困り事がある子に必要な「ICTを活用した学びの保障」が学校で浸透しない訳 15年目「魔法のプロジェクト」から見た教育課題
「不登校やギフテッドなど、従来の学校の枠組みから飛び出す子が増えてきましたが、この流れが外圧となり日本の教育を変えていくだろうと期待しています。現に不登校が増えて2017年には教育機会確保法が施行され、学校を離れても義務教育を受けられるようになりました。東京都もメタバースの学びの場を子どもたちに提供しようと動き始めています。こうした状況からも、ICTを活用してインクルーシブ教育を実現できる先生たちを増やしておかなければいけません」
「複数の学びの場」を保障すれば個別最適な学びは可能
では、インクルーシブ教育を可能にするために、ICTは具体的にどう活用すべきなのか。中邑氏はこう説明する。
「すべての子が一緒に学ぶフルインクルージョンの場をつくるには、全員が先生の言うことが理解できて読み書きができる状態が必要です。まずはICTを活用してそのレベルの実現から始めるべきです。例えば、話すことが難しい子はタブレット端末で書いたものをみんなに読んでもらえばいいし、聞くことに困難がある子はマイクとヘッドセットを使えばいい。読み・書きの困難もタブレット端末で補える。これらが当たり前になれば、特別支援教育が必要だった子だけではなく、通常学級の中で困り事があって不登校になっていたような子もサポートできるようになります」
そのうえで、複数の学びの場を持てることを保障すれば、すべての子の個別最適な学びは可能だと中邑氏は語る。
「例えば、ギフテッドの子が遠隔で学べる場をつくり、大学の授業や通常学級と行き来できるようにする。知的障害のある子は、教科学習が難しいので特別支援の場を保障しながら、実技系など参加できるものは通常学級で学ぶ。このように、全員が全部の授業を通常学級で受けるのではなく、学びの場を複数持てればうまくいくはず。学習管理システムの構築は必要ですが、それもすでに大学では整備されているので可能でしょう。教育機会確保法ができた今、やろうと思えばできることです」
魔法のプロジェクトが始まった当初は、重度重複障害や知的障害のある児童生徒の指導に携わる特別支援学校の教員が応募するケースが多かったが、近年では特別支援学級や通級、通常学級の教員からの応募が増えているほか、自治体単位での応募も増加しているという。
「ICT活用を学んだ先生が3割まで増えれば、きっと教育は変わります。自治体で好事例ができれば、まねしてくれるほかの自治体も増えるかもしれない。だからこそ、魔法のプロジェクトはまだまだ続けなければいけません」と中邑氏は言う。
佐藤氏も今後についてこう語る。
「ICTは個別最適な学びの提供に資するものです。しかし、合理的配慮が義務づけられているのに、ICTを利用した学びを認めてもらえないケースはまだまだ多く、そんな状況を早くなくしたいと思っています。AIをはじめテクノロジーの進化は激しいですが、今後も時代を捉えながら活動を進化させ、教員の方々が安心してICT活用に取り組んでいけるようにしていきたいと考えています」
(文:吉田渓、編集部 佐藤ちひろ、注記のない写真:ソフトバンク提供)
東洋経済education × ICT編集部
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