困り事がある子に必要な「ICTを活用した学びの保障」が学校で浸透しない訳 15年目「魔法のプロジェクト」から見た教育課題
プロジェクトが続く中、学校現場にも大きな変化があった。GIGAスクール構想の下、全国の小中学校に1人1台端末が整備されたのだ。佐藤氏はこの動きを喜ばしいことだと評価しながらも、個々の学びを保障する活用としては「まだ過渡期にある」と感じている。学校ではまだ、端末を壊さないことや管理しやすい使い方などが重視されがちだからだ。
「先生の号令や指示の下、1人1台端末を使う学校も多いですよね。それも1つの使い方ですが、一人ひとりの必要に応じて使えているかという点では疑問が残ります。例えば、文字を書くのが困難な子や板書に時間がかかる子は、文字入力を使ったり、板書をカメラ機能で撮影して写真を見本に書いたりすると楽になることがあり、それが『自分でできた』という実感につながることが魔法のプロジェクトでも明らかになっています。先生方には『ICT機器はその子の苦手や困難を補うもの』とご理解いただき、有効に使っていただけたらと思っています」
真の目標は「インクルーシブな教育環境」の実現
始動当初からプロジェクトに携わる東京大学先端科学技術研究センター シニアリサーチフェローの中邑賢龍氏も、ICTを活用した学びの保障には、教員の心構えが重要だと語る。

東京大学先端科学技術研究センター シニアリサーチフェロー
広島大学大学院教育学研究科博士課程後期単位取得退学後、香川大学教育学部助教授、米カンザス大学・ウィスコンシン大学客員研究員、英ダンディー大学客員研究員、東京大学先端科学技術研究センター教授などを経て2022年より現職。「ユニークな人材を受け入れ、多様性を認め合う社会の実現」を目指し、ICTを活用した学び支援研究、重度の知的障害や重複障害のコミュニケーション支援研究、不登校や引きこもり状態になっている若者の支援研究などを行っている。著書に『どの子も違う 才能を伸ばす子育て 潰す子育て』(中公新書ラクレ)、『育てにくい子は、挑発して伸ばす』(文芸春秋)など
(写真:中邑氏提供)
「これまで日本の特別支援教育の場では、『障害は治療すべきもの』という医療モデルの観点で反復訓練を重視する先生が多かった。しかし、懸命に練習しても上手に字が書けるようにならず卒業していく子もいます。でも、スマホを使えばあっという間に作文ができるのです。重要なのは、字を書くことではなく、知識を得て自ら学んでいくこと。まずは先生がそこに気づき、機械を使ってでも学び方を身に付けさせてあげなければと思うことが大切です」