発達障害の増加で「児童精神科の初診までの待機」が長期化、医師不足も深刻 通常学級の11人に1人、特別支援学級の子も倍増
最近はコロナ禍による特徴的な疾患も見られる。中でも、完璧主義的な子どもたちが刺激されて、摂食障害が急増しているという。
「発達障害でも医療的な支援は必要なく、学校や放課後デイサービスなどで手厚い支援を受け、元気に成長している子どももいます。しかしながら、摂食障害の1つである神経性やせ症は、長期間の極度の拒食によって低体重・低栄養、羸痩(るいそう:著しくやせること)、徐脈、低体温などが生じてきます。そのため、医療機関以外では、生きるか死ぬかの問題に対応することができません。病院に来たときに、生命の危機に直面している場合、入院させるしかないわけです。摂食障害の子どもたちの入院が増えると、わが国の児童精神科には限られた病棟しかないわけですから、必然的に病棟の余裕はなくなってきます。国府台病院には45床あるのですが、昨年は成人の精神科病棟も合わせて年間で46.1人入院しています。つまり、自殺や重度の精神疾患などによって入院の必要性が高い場合があっても、神経性やせ症の子どもたちが入院してベッドを使用していることで、もしかしたら入院できない子どもも出てくる可能性があるわけです。国府台病院では、児童精神科医が大人の精神科医と別に11人おり、以前よりも人員が削減されています。それでも全国的には充実しているのですが、診療ニーズに対しては決して足りるものではありません」
また国府台病院の児童精神科は、子どもの入院に欠かせない院内学級も擁している。担当の教員も小学校で6人、中学校で2人いて、ここから受験に臨む子どもたちもいるという。この体制を聞いただけでも、児童精神科の治療は大人とは異なり、多大な手間と時間がかかるというのがわかるだろう。
児童精神科の医師は大きく不足、学校現場でできること
児童精神科の医師が大きく不足しているのは、国府台病院だけではない。児童精神科が集中している都市部に加えて、地方はさらに深刻な状況だという。発達障害の増加に伴って、児童精神科を受診する子どもたちが増える中、それを診る医師が足りないという現状が、初診までの待機時間の長期化を引き起こしているわけだ。
「専門的な医師はすぐには養成できません。例えば、児童精神科で一人前の専門医師になるには、大学を出てから臨床研修、専門研修など14年の期間を要するといわれています。大人の精神科の人気は近年高まっているようですが、児童精神科医が少ない問題は続いています。とくに児童精神科は女性の医師が志す場合が多いのですが、専門医師となったときに結婚・出産などのライフイベントと重なってきます。また男女ともに開業医となるケースも多い。児童精神科に興味がある医学生は年間で100名ほど見学に訪れます。ところが、いざ医師としての研修が始まると、児童精神科医になるまでの長い研修期間は収入も若い頃のままで、当直を含めた業務の大変さから研修を継続することが難しくなることもあります。専門医師として大規模病院に残る医師は多くなく、一方で増え続ける患者のニーズに追いつけなくなっているのです」
継続して専門医を増やしていく施策は必要だが、それには時間がかかる。今ある初診までの待機時間の長期化問題を少しでも解消できるような手だてはないのか。
「医者以外の関連職業の方たちが、もっとコミットできるような連携体制が必要だと思っています。精神科医でなくても対応できるところを、地域の小児科医やケースワーカー、教員や公認心理師の皆さんと分担して診ていく必要があるのです」