教員採用試験「早期化・複数回実施」でも、志願者は増えないこれだけの理由 「授業をする先生の不安そうな表情」を見て断念

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宮川洋(仮名)さんも、今年、関西にある大学の教育学部を卒業したが、コンサルタント会社に就職した。大学1年生くらいまでは、教員志望だった。

「高校の先生が親身に生徒の相談に乗ってくれる人で、『こういう先生になりたい』というのが教員を志望した理由です。それで教育学部に入学し、大学1年生くらいまでは『絶対に教員になる』と思っていました」

その決心が揺らいだのだ。その理由を、宮川さんは次のように話してくれた。

「いちばん大きいのは、収入です。先輩とかの話を聞いていると、教員の年収は40歳くらいで700万円くらい。それがコンサルタント会社では、30歳くらいで1000万円は超えています。それなら、やはり年収の高い職業がいいな、と考えました」

宮川さんも山﨑さん同様、教採は受験していない。ただし、教員免許は取得している。「将来、教員をやろうと思ったときに、免許さえあればやれますからね。教員免許は保険みたいなものです」と、宮川さんは言った。

それでも、教採も民間企業の採用試験も受験してみて、それから選択するということもできたはずだ。それを聞くと、2人の答えは同じだった。民間企業を受験するにも、会社訪問や面接など準備が大変だ。しかも、複数受験が普通なので、いくら時間があっても足りない。それと並行して教採の準備をすることは不可能なのだという。宮川さんが続けた。

「私の周囲でも、民間企業への就職は早い時期に決める人が多かったです。そうしないと、準備が間に合いません。民間企業と教採の両方を受験するのは、かなり珍しいのではないでしょうか」

そのため、民間企業に合格したので教採の合格は辞退するというケースは、ごくまれでしかないことになる。文科省は今年5月31日、教採の早期化・複数回数実施などについて方向性を取りまとめて提示している。教採の時期を早めたり、受験回数を増やすことで、教員を確保しようというわけだ。

しかし民間企業でも試験時期を早める傾向が強まる中で、いくら早期化しても追いつかない事態になるのは目に見えている。併願での辞退もいっそう増えることになる。もしも教採の受験者が増えたとしても、教員の働く環境が変わらないままでは、両方に合格すれば、教採合格の辞退者が続出することになりかねない。教採が、単なる「滑り止め」になってしまう可能性も高い。教採の早期化・複数回数実施は、辞退者の問題を大きくするだけかもしれない。

(写真:EKAKI / PIXTA)

前屋 毅 フリージャーナリスト

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まえや つよし / Tsuyoshi Maeya

1954年、鹿児島県生まれ。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。著書に『学校が合わない子どもたち』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』(朝日新聞社)、『ほんとうの教育をとりもどす 生きる力をはぐくむ授業への挑戦』(共栄書房)、『ブラック化する学校 少子化なのに、なぜ先生は忙しくなったのか?』(青春出版社)、『教師をやめる 14人の語りから見える学校のリアル』(学事出版)など。

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