教員採用試験「早期化・複数回実施」でも、志願者は増えないこれだけの理由 「授業をする先生の不安そうな表情」を見て断念
教採は7月に実施する自治体が多い。試験日が近くなることで、まったく無理ではないが、併願をしにくいのは事実だ。しかし、高知県は6月と早い実施で、さらに大阪にも会場があるため高知県まで足を運ぶ必要もなく、他県との併願がしやすい。そのため受験者が多くなり、倍率は上がるというわけだ。
ただし、併願受験して複数合格すれば、1つを選択しなければならない。高知県と他県の教採を受験し、両方で合格しても、他県を優先すれば、高知県を辞退することになる。こうした辞退者が多いことが、教採の倍率は高いにもかかわらず実際の採用者数は予定数にも達しないという現実につながっている。
併願での辞退は珍しくない
併願は、高知県だけの特殊な事情でもない。ある私立大学で教採指導をしている教授は次のように話す。
「併願は、できないわけではありません。同じような時期であっても、まったく同じ日程ではないので、調整すれば可能です。大学としても、併願受験を勧めてもいます。理由は、『滑り止め』のためです。本命試験の前の『力試し』で受験する学生もいます。ですから、併願受験は少なくありません」
併願受験が多くなれば、それだけ辞退も多くなる。高知県と同じようなことが、多くの自治体でも起きていると考えられる。
「親の希望もあって地元自治体の教採も受けました」と言うのは、東京都で中学校教員をしている松田明(仮名)さんだ。「東京で学生生活を送って、東京での生活に慣れたせいか、地元に帰って実家で暮らすのは苦痛に思えました」と、松田さん。そして、地元は辞退して、東京での教員を選んだのだ。
松田さんの大学時代の同期でも、併願は多かったという。ただ、松田さんのように東京を選ぶケースばかりではないという。「地元で暮らすほうが知り合いも多いし、楽だと考える人も少なくありません。そういう人は東京を辞退して地元を選ぶようです」とも続けた。
民間企業希望者は早い時期に「教採を捨てる」
併願は、教採の併願だけなのだろうか。教採と民間会社の採用試験を受けて、両方とも合格したけれども、民間会社を選んで、教採の合格は辞退した、なんて例があってもよさそうだ。そういう辞退者に話を聞きたいと思い、いろいろなところに声をかけて探してみた。
しかし、なかなか見つからない。そうした中で、山﨑明代(仮名)さんに話を聞くことができた。山﨑さんは、今年、私立大学の教育学部を卒業したのだが、IT系の会社に就職した。
「親が教員だったこともあり、早くから教員を目指していて教育学部に進学しました。教員免許は取得しています」
ただし、山﨑さんは教採を受験していない。その理由を次のように説明する。
「小学校で教育実習したとき、2021年度から必修化になったプログラミングの授業を何度か見学させてもらいました。そこで目にしたのは、教えるための十分なスキルがないまま授業をしている先生たちの不安そうな表情でした。時代の変化が速い中で、教員が教えることも変わっていくはずです。そういう場に身を置いて、不安な気持ちのまま子どもに接しなければならないのかと考えたとき、『教員の仕事は自分に向いていない』と思いました。それで、教員になるのはやめました」
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