「教育困難校では定員割れも珍しくありません。中学校にまともに通っていなくても、極端ですが入試が0点でも入学できるケースもありますから、何かを学ぶための基礎学力すら置いてきてしまった生徒が集まっていたわけです」
漢字がわからず板書を写すのに時間がかかる生徒や、足し算でつまずく生徒も多く、ましてや理科の専門的な内容にはとても踏み込めない。そこで、黒板の内容をすべてプリントで渡したり、定期テストで授業とまったく同じ出題をするなど、赤点を減らす取り組みから始めることにした。
「対症療法的な方法でしたが、それでも平均点が上昇すると、わずかに生徒たちの目の色も変わり始めたというか……。テストでいい点を取る、褒められるといった成功体験が極端に少なかった子が、少しずつやる気を取り戻し始めたように感じました」
生徒のレベルに合わせた授業やテスト作成を続けると同時に、藤崎さんは学校行事でも生徒に「責任」を与えるようにした。それまで学年やクラス単位で競っていた体育祭を、1年生から3年生が混在するチーム編成に。一部の教員からは「トラブルのもとだ」「そんなの無駄だ」という意見もあったが、3年生にリーダーを任せて学年ごとに役割を与えることで、それまで「言われたことをやる」だけだった生徒たちが徐々に自主的に動くようになったという。
「この学校の生徒には、小学校と中学校でみんなと何かに取り組んだり、リーダーとして人をまとめたりしたことがなかった子も多い。責任を持って成し遂げるという成功体験を重ねさせる必要があると思いました。以前よりも前向きに登校する生徒が増えたように思いますし、やっぱり彼ら自身にも『現状を何とかしたい』『楽しい学校生活を送りたい』という気持ちがあるんです」
子どもに「楽しかった」と言える思い出を1つでも残したい
一方で、少子化や人口減少を理由に、こうした定員割れの学校や教育困難校を統廃合する動きも加速している。
「教育困難校の生徒は、統合先の高校へは学力が足りず入学できません。彼らは中卒を選んだり、不登校になってしまったりするでしょう。また、彼らの中には、実は発達障害を抱えている生徒や、本来は特別支援学校に通うような生徒もいます。われわれの高校では、そうした生徒を受け入れられるような工夫もしてきました。こうした学校を潰すことは、彼らが全日制普通科を卒業できる可能性を潰すことでもあります。生徒の選択肢を狭めること、それが本当に子どもたちのためなのかは疑問です」
現在、複数の自治体が高校の再編を含む教育改革を進めている。公立高校の魅力向上を掲げているが、それが「誰にとって魅力的なのか」をいま一度考えてほしいと藤崎さんは訴える。教育困難校の生徒の多くに共通するのが、親が子育てを放棄している点だ。子どもに関心がなく、自分の生活や楽しみが優先。今でこそ少なくなったが、藤崎さんの着任当時は修学旅行のために積み立てたお金が惜しくて、生活がそこまで困窮していないにもかかわらず修学旅行を休ませるような親も少なくなかったそうだ。統廃合が進んだとき、そうした親がわが子の学力に見合う面倒見のよい学校に遠くても通わせるとは思えない、と藤崎さんは懸念する。