美濃市が「医療者と連携」し、市を挙げて不登校対策に取り組み始めた訳 学校の非公式ルール「かくれ校則」も見直す方針

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研修会では、こうした不登校の現状や意識の共有、具体的な対応の提案を行った。全教職員を対象とした狙いについて、加藤氏はこう語る。

「ほかの自治体で全教職員向けの講演をさせていただいた際、その後のご相談がとてもスムーズでした。今回は単発ではなく長期の取り組みなので、しっかりとインフラづくりを行うためにも、初めに全教職員の方々にお話をさせてほしいと島田教育長にお願いをして実現していただきました。7月には、若手・中堅の先生方向けに、深掘りした形での研修会も予定しています」

「ホットライン」と「情報共有体制」をICTで構築

市内小中学校のすべての保護者に対しても、同じく意識の共有を行っている。5月から各学校のPTA総会や参観日を利用し、保護者を対象に加藤氏の講話と相談をセットにした説明会を順次実施しているのだ。

美濃小学校での保護者説明会

また、不登校および不登校傾向にある本人や保護者が、加藤氏に直接相談できる個別相談会も別途開催、11月までに7回の実施を予定している。希望者は後日、加藤氏の診療を受けることも可能だ。すでに13例の相談があり、9例は医療受診を開始している。加藤氏は、こうした個別相談や診療を基に、特別支援学級の検討や学校での対応の仕方についてなど、個々のケースに応じたアドバイスを行っている。

さらに、「ホットライン」もつくった。全教職員と、個別相談に参加した希望者に対して、24時間いつでも加藤氏に連絡できるメールアドレスを案内している。また、教育委員会のMicrosoft Teamsに、教育委員会と各学校のコアメンバー、そして加藤氏からなるチームもつくった。

「私は個別面談や診療したケースの報告や先生方にお願いしたいことを、先生方は私に相談したいことなどを、Teamsで随時やり取りできるようにしたのです。これは教育長や市長にご賛同いただけたからこそ実現できたこと。私も先生方と直接情報共有できるのは初めてなのですが、とても話が早く、機動的・有機的に子どもたちに対応できています」(加藤氏)

まだ取り組みが始まって間もないが、島田氏も手応えを感じている。

「病院は敷居が高く、どこに相談してよいのかわからない保護者も多くいらっしゃいますので、気軽に相談できる貴重な仕組みができ、保護者の大きな安心感につながっていると思います。また、教員経由で個別相談につながった方も何名かいて、研修の効果を実感しています。『不登校の子たちの新たな支援者として、加藤先生のような方がいてくださることはありがたい』と言う教員もおり、教職員にとっての安心感にもつながっていると感じます」

学校、家庭、医療者の三者がつながれるこのインフラ構築は、「実は医師にとっても『あんき』」だと加藤氏は言う。

「通常の医療現場では一人ひとりのご相談を受ける形になりますが、この取り組みではごきょうだいやご家族がそろってのご相談になることも多く、背景を把握したうえでお子さんを診ることができます。各学校とつながった地域を挙げての取り組みなので、町の開業医のような対応もでき、私も『あんき』に動くことができてありがたいです」

「全国で参考にできるモデルケースをつくりたい」

この不登校対策事業は、「不登校の起こりにくい学校づくり」も大きな目的としている。

「私が目指すところとしてはここがいちばん大きい。加藤先生が指摘される『かくれ校則』は、確かに子どもたちの息苦しさにつながっているのではないかと考えています。現場によっては、自主的な活動でも子どもたちが互いを管理し合うような姿が見られるようで、指導の見直しを検討しているところです」と島田氏は話す。

加藤氏によれば、同市にはドリルを3回繰り返す学習指導や、宿題をたくさん出す習慣、夏休み明けに実力テストを行う慣例などの「かくれ校則」があるという。「子どもたちは『だらだらしてはいけないから』とよく言うのですが、それだけ休めない状況に追い込まれています。大人だって休日は休みますよね。勉強は学校でしっかりやって、放課後や休日はオフにしてあげる必要があります」と訴える。

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