全国初の「不登校特例校」夜間学校がなぜ香川県の三豊市高瀬中に誕生したのか 「首長はどうかハンコを」教員が懇願する背景は

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不登校の児童生徒は年々増加している。文部科学省が2022年10月27日に公表した「令和3年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」によれば、中学生の不登校は10年前の1.7倍で16万3442人にも上る。そんな中、文科省は22年3月、香川県の三豊市立高瀬中学校の夜間学級を「不登校特例校」に指定した。これは夜間学校として全国初の「不登校特例校」であるほか、実は全国で唯一学齢期の生徒を受け入れる夜間中学が誕生したことも意味する。同年10月、同校には県内の男子生徒1人が入学した。不登校生の今後と、夜間中学のあり方を、今回の指定に大きく貢献した同校夜間学級英語教諭の城之内庸仁氏に聞いた。

なぜ「今、中学生」の不登校生は夜間中学に入れないのか

現在、不登校特例校は全国に21校ある。その中でも、香川県三豊市立高瀬中学校は唯一の夜間中学だ。そして、学齢期の生徒が入学できる初めての夜間中学でもある。原則として、公立夜間中学には15歳を超えていなければ入学ができない。しかし、現在学齢期の不登校の生徒には、起立性調節障害などが原因で「朝や昼間は動けない」という子どもも多い。夕方以降であれば通学できる生徒もいる中で、なぜこれまで、夜間中学校での不登校生徒の受け入れがなされてこなかったのだろうか。

通常、公立中学校を卒業するには1年間に1015時間の授業を受ける必要がある。一方で、全国の夜間中学の授業時間は1年間に大体700時間前後。この差分については、生徒の社会人経験を考慮するという弾力的な対応で卒業を認定してきた。しかしながら、現在学齢期にある生徒にはまだ社会人経験がない。そこで三豊市立高瀬中学校は、学齢期の生徒に向けて週3回「0時間目」を設けて1年間に805時間分の授業にまで拡充。残る210時間分については、複数の教科を抱き合わせて実施できる授業を行って賄う。不登校特例校に指定されたことで特別な教育課程の編成が可能となり、学齢期の生徒に卒業認定を与えられる夜間中学が誕生したのだ。

0時限目の「ひな」では、「小学校の学習内容」と「中学校の学習内容」を扱う。いずれも不登校経験で欠落している学習内容や、標準時数の年間1015時間からの不足分を補う目的。内容例としては、ドリル学習などの反復練習、総合・英語・社会の抱き合わせ型の授業など

不登校生徒の困惑「バイトしたいが履歴書を出せない」

この三豊市立高瀬中学校夜間学級の設置に大きな役割を果たしたのが、同校英語教諭の城之内庸仁氏だ。もともと、岡山県の中学校で通常学級の教師をしていた城之内氏。当時の学校はいわゆる「困難校」で、授業中に学校を抜け出す生徒も多かった。そんな中で、不登校生にも積極的に家庭訪問を行った城之内氏。とある卒業生が、数年後に城之内氏を訪ねてきたという。「何度も家庭訪問に来てくれたのに、ごめん。でも当時はどうしても会えなくて」。そして同時に助けも求められた。「バイトをしたいけれど、履歴書が提出できない」。そこから城之内氏は必死に学び直しの施設を探すが、岡山県には公立の夜間中学がなく、行き着いたのは公民館や教養講座の英会話スクール。「ごめん、先生、どうにもしてやれん。でも、相談ならいつでも来いよ」。そう伝えるしかない自分が情けなくてつらかったそうだ。

城之内 庸仁(しろのうち・のぶひと)
香川県三豊市立高瀬中学校 夜間学級英語教諭
一般社団法人 岡山に夜間中学校をつくる会 理事長、全国夜間中学校研究会 理事、基礎教育保障学会 理事、三豊市総合政策アドバイザー、三豊市における夜間中学協議会 委員、三豊市における公立中学校、夜間学級在方検討委員会 副委員長、岡山市における公立夜間中学の在り方検討会 委員など歴任
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