「細切れ」にして放送すると、何がいいのか

現在NHKで放映中の連続テレビ小説(通称:朝ドラ)「ちむどんどん」をご存じですか? 沖縄料理に夢を懸けるヒロインと支え合う兄妹が登場する「家族」をテーマにしたヒューマンドラマです。

SNSを中心にとても話題となっているドラマですが、実はこのNHKの連続テレビ小説シリーズには学習用の動画教材に生かせるヒントがいくつも詰まっています。

そのヒントの1つが、「細切れ」にして放送することです。連続テレビ小説の放送時間は、毎回15分ですよね。つまり、続けて見れば長くなる内容を短めのチャプターに分割して視聴してもらうのです。

とくに学習用動画の視聴においては、チャプターに分割した動画のほうが、分割していない動画よりも高い学習効果が得られたという研究報告もあります。学習(視聴)時間の確保、満足度、認知的負荷の軽減という、いずれのポイントでも改善が認められたのです。

また学習者がその内容に知見のない初学者であればあるほど、チャプター分割された動画の視聴は学力向上にプラスに作用することが海外の研究でわかっています。なぜそのような結果が得られたのでしょうか?

それは同じ内容でも、チャプターに分割して視聴したほうが、視聴者の認知的な負担が減り、集中力を維持することができるからだと考えられています。

動画は6分を超えると視聴者の離脱が一気に増える

私は駿台予備学校を退職後、2022年3月まで大学院で、集中力が維持でき高い学習効果が得られる学習用動画をデザインする研究を行っていました。大学院を修了した現在も、そこで得た研究知見を基に独自に研究を進めながら、授業や研修づくりにいそしんでいます。

実は、私は座って人の話をずっと聞くというのが昔から苦手で、授業中などはすぐに集中力が切れてしまったり、机に向かっていても飽きて別のことをやってしまったりするような人間でした。

とくに収録(オンデマンド)型の講義の視聴は、集中力が持たず、自分に嫌気が差すほど身が入りませんでした。もう20年以上前になりますが、私が大学受験した頃にはすでに、eラーニングの広がりとともに予備校の授業で映像や動画を用いることが増えてきていたのです。

また、社会人になってからは、セミナーや講演会、大学院の講義などを動画で受講する機会が学習時間の大部分を占めるようになりましたが、収録型講義の視聴が苦手という傾向は今もあまり変わっていません。

こうした私自身の悩み・経験もあり、学習用動画のデザインを研究テーマに選んだのですが、研究プロセスでは、学習内容の良しあしだけでなく、収録方法の工夫についてもさまざまな検証を行いました。

その工夫の1つが「チャプター分割」です。また、単に分割するだけでなく、各チャプターの再生時間を短めにして分割するのです。海外のある研究では、動画の視聴時間が6分間を超えると、視聴者の離脱が一気に増えることが明らかになっており、このような研究結果を参考にしました。

チャプター分割された動画を最大限に生かすコツ

それでは、長編の収録型の動画をチャプターに分割する際、再生時間のほかにどのような点を意識すればいいのでしょうか?

学習動画のチャプターを分割する際のポイントは、「ある問題を解くための知識やスキルが習得できる最小単位で分割する」ことです。そうしたほうが、視聴者の問題解答力が向上しやすくなります。

私の研究では、大学入試センター試験(現・大学入試共通テスト)の英語問題を題材にしたのですが、駿台国際教育センターの英語講師でオンライン英語スクール「E Cubed」を運営している駒橋輝圭氏の協力の下、英文法の関係詞というテーマを以下のようなチャプターに分割し、学習者に視聴してもらいました。

チャプターに分割せずに流すと約120分間程度です。それを5分から最大10分程度の長さに分割しました。

いずれも、ある1つの英文法の問題を解けるスキルが習得できるようになっています。この講義をデザインするコツについて、先の駒橋氏にインタビューしたところ、次のような回答をもらいました。

「授業を受ける(生徒)側の視点としては、全体数が多くなりすぎてやる気が薄れる。『15個のポイント』って言われたほうが、『おし、じゃあ15個ならクリアできるかな』って思うんだけど、それが3分の動画が100個ありますとか言われたら、『100個?』みたいな。細切れに(分割)しすぎると、全体の個数が多くなるから、取り組もうという最初のモチベーションに対してネガティブな影響があるんじゃないかな」

つまり、集中できる時間(6分程度)で区切ることはもちろん大事ですが、むやみやたらに意味のないところでチャプターを区切らないほうがいいということです。

また、意味のあるまとまりを意識した結果として6分間をオーバーしてしまっても、収録型の動画であれば、倍速視聴で再生時間を短縮することが可能です。学習者が見る時間(再生時間)として6分間程度を目安とすればよく、あくまでその内容の理解や学習を阻害しない程度のチャプター分割が重要だと考えています。

最後に、チャプター分割された動画の学習効果を最大限に生かすコツをお伝えします。

それは、最初のチャプターで、その動画全体の視聴ディレクションを行うことです。あらかじめ、学習者にチャプターリストを渡したり、ウェブサイト上に掲載したりすることもお勧めです。

視聴ディレクションとは、例えば、「チャプター○番は全員必ず視聴すること」「チャプター○番の内容が理解できなかった人は□□を復習しておくこと」「チャプター○番は内容的にレベルが高いので、初心者はスキップしてしまってもOK」のような指示出しのことです。

ついつい見入ってしまう「飽きない」学習用の動画教材3つの特徴
1. 動画をチャプターに分割する
2. さらにチャプター分割は、集中できる時間として6分程度を目安に、内容の理解や学習を阻害しない程度に最小単位で分割する
3. 最初のチャプターで、動画全体の視聴ディレクションを入れる

このように、意味のあるチャプターに分割するだけでなく、それらをどのように視聴すればいいかを伝えることで、学習者がより効果的に収録型の講義動画を視聴できるようになります。ぜひ試してみてください。

犬塚壮志(いぬつか・まさし)
教育コンテンツプロデューサー/ワークショップ共同代表/合同会社JUKEN7特別講師
福岡県久留米市生まれ。元駿台予備学校化学科講師。東京大学大学院学際情報学府博士前期課程修了。業界最難関といわれる駿台予備学校の採用試験に当時最年少の25歳で合格。開発したオリジナル講座は開講初年度で申し込み当日に即日満員御礼、キャンセル待ちの大盛況。3000人以上を動員する超人気講座となり、季節講習会の化学受講者数は予備校業界で日本一に(映像講義除く)。2017年に駿台予備学校を退職。現在は、講座開発コンサルティング・教材作成サポート・講師養成を請け負う「士教育」と、大手予備校の最前線で活躍する講師のみを集めた大学受験専門塾「ワークショップ」を経営する。また、駿台予備学校出身の講師で立ち上げたオンライン予備校「JUKEN7」にも特別講師として出演中。主な著書に『あてはめるだけで“すぐ”伝わる 説明組み立て図鑑』(SBクリエイティブ)がある
(写真:本人提供)

(注記のない写真: aijiro / PIXTA)