精神科医・杉山登志郎、子どもの発達障害の大半は「発達の凸凹にすぎない」訳 診断名にとらわれず困りごとに注目して対応を

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文部科学省が2022年に行った「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果」によると、「知的な発達に遅れはないものの学習面や行動面で著しい困難を示す、発達障害の可能性がある」と思われる児童生徒の数は8.8%。10年前の6.5%から増加している。その背景や教育現場の現状、今後の課題などについて発達障害をメインに臨床・研究を行う精神科医の杉山登志郎氏に話を聞いた。

発達障害の大半は「病気ではなく障害でもない」

――発達障害には、社会性やコミュニケーションの障害である「自閉症スペクトラム障害(ASD)」、不注意と多動・衝動性が目立つ「注意欠陥多動性障害(ADHD)」、読み書きや計算のいずれかまたは複数が困難な「学習障害(LD)」などがあります。こうした発達障害の子どもが、近年増えているのはなぜでしょうか。

2005年に発達障害者支援法が施行され、発達障害に対する支援が定められました。これを機に「やる気が足りない」「親のしつけが悪い」と、それまで思われていた子どもたちに対して、「もしかしたら発達の問題を抱えているのではないか」 という目が向けられるようになりました。発達障害の子どもが増えている背景には、こうしたことも関係していると思われます。

ただ、精神科は症状による診断であることを忘れてはなりません。いくつか項目があり、例えば6個当てはまればその病気と診断する方法ですが、そのうち3〜4つが当てはまるという子もいるわけです。

実際、そういう子が増えていますから、発達障害といわれている子どもたちの大半は、単なる発達の凸凹にすぎません。通常の発達と比べると凸凹があるものの、それが普遍的なハンディキャップとは言い切れないケースです。確かに得意なことと苦手なことの差が大きく凸凹がある。しかし凸凹があること自体は病気でもないし、障害でもありません。

例えば、こだわりが強く人の気持ちが読めないASDは、「マイペースで物事に取り組める」性格であるともいえます。座っていることができずに動き回るADHDは、裏を返せば「エネルギッシュでバイタリティーのある人」ということになる。加えて子どもは成長します。いま発達障害だといわれている特性が、将来大きなプラスの要素となってその子の能力を引き出すことも少なくありません。

少人数の学びで発達の凸凹に寄り添う

――幼稚園や保育園では問題はなかったものの、小学校入学を境に困りごとが出てくるケースが多いですね。

杉山登志郎(すぎやま・としろう)
福井大学 子どものこころの発達研究センター 客員教授
久留米大学医学部小児科、名古屋大学医学部精神科、静岡県立病院養心荘、愛知県心身障害者コロニー中央病院精神科医長、カリフォルニア大学留学、名古屋大学医学部精神科助手、静岡大学教育学部教授を経て、2001年あいち小児保健医療総合センター心療科部長兼保健センター長、10年浜松医科大学児童青年期精神医学講座教授、16年同大学客員教授。17年から福井大学子どものこころの発達研究センター客員教授。『発達障害の子どもたち』『発達障害のいま』『子育てで一番大切なこと 愛着形成と発達障害』(いずれも講談社現代新書)など著書多数
(写真:杉山氏提供)

学校という枠にはまらない個別対応が必要な子どもが増えてきたことを考えると、従来の一斉授業は見直さざるをえません。

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