精神科医・杉山登志郎、子どもの発達障害の大半は「発達の凸凹にすぎない」訳 診断名にとらわれず困りごとに注目して対応を

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例えば「漢字が書けない」という学習のつまずきを抱えた子どもがいるとします。この場合、短期記憶や作業記憶が弱いから書けないのか、視覚的な認知の偏りがあるのか、過敏性があってノートや教科書を見ることに抵抗があるのかなど、一人ひとり抱えている問題は異なります。

しかし、日本の学校教育は集団で動くことが基本となっているため、こうした個別対応に慣れていません。まずは少人数学級を増やし、ICTなども活用しながら、それぞれに合った学びを確保することが重要です。

――文科省の調査でも、直近10年間で特別支援教育を受ける児童生徒数は倍増しています。中でも通常の学級に在籍しながら一部の時間で個別な指導を行う「通級」の利用者数は約2.5倍と増えていますが、これも個別対応の流れといえるでしょうか。

確かにそうですが、小学校・中学校の週1~8コマという今の時間数ではとても足りません。個別対応の必要性は学習につまずきを抱えている子だけでなく、特異な才能を持つギフテッドと呼ばれる子どもたちにも重要な問題です。特異な才能と発達障害を併せ持つ2E(twice-exceptional)といわれる子どもたちの認知の凸凹はマイナスではありませんが、通常の集団教育では対応が困難です。そうしたギフテッドの支援が進んでいくと、特別支援教育に対するイメージも変わっていくでしょう。

――発達の凸凹を抱えた子どもたちが学ぶうえで、ほかにも学校現場で課題となることはあるでしょうか。

学校現場に多い「年齢相応にできるのは当たり前。できないときだけ叱る」というやり方は、発達に凸凹のある子どもたちには向きません。出来事の背景を読み取る力が弱い子は、なぜ叱られているのかを理解できないのです。やみくもに叱責するのではなく、「こうすればうまくいく」という方法を丁寧に教えてあげてください。また子どもたちの「できていること」「努力していること」を確認してあげるとよいでしょう。

発達の凸凹がある子どもたちは、自分だけができない、繰り返し叱責されるなど「自分はダメだ」という失敗体験を積み重ねていることが多い。子どもがいつもより努力していることを見いだし、それを具体的に積極的に褒めていくことが重要です。

さまざまな問題行動が発達の凸凹によって起こっている場合は、脳の機能が発達する小学校4年生になると、しだいに和らぎ落ち着いてきます。小学校1年生から3年生の間はなかなか対応が難しいケースも多いので、私は以前から「幼稚園6年制」を提唱していて、ジュニア幼稚園・シニア幼稚園と分けて6年間で教育を行えばいいのではないかと思っているのですが……。突飛な意見と思われるかもしれませんが、長年子どもたちを診ている医師として、これは自信を持って言えることです。

自閉症には専用の教育プログラムを

――一方で発達の凸凹とは分けて考えなくてはならないケースもあるとおっしゃっていますね。

ASDの中でも自閉症の子どもたちは、感覚や知覚に過敏性があるため普通の人が何とも思わないことに脅威を感じたり、次に起こることが予想できずに圧倒されるような経験をしてきています。例えば「腕時計の音がうるさい」など、狭く細かいところに認知の焦点が当たり、われわれのように全体をあいまいに認知することができません。そのため自閉症に関しては、TEACCHプログラムなど、専用の教育プログラムを受けられることが理想です。

いずれにしろ無理に彼らを世間の常識に合わせるのではなく、周囲の人々が自閉症のある人々の捉え方、見え方、感じ方を理解し、そのうえで彼らの特性が社会に適応できるようにすることが必要です。これはトラウマを抱える子どもたちにも同じことがいえます。

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