杉並区初の女性区長・岸本聡子、「日本は子育てにお金かかりすぎ」と危惧する訳 「児童館廃止」へ向かう社会に感じた違和感
“ないない尽くし”の欧州と、“子育て罰”の日本
――欧州の子どもをめぐる環境は、日本とは異なる点が多そうですね。
私が暮らしていたオランダとベルギーでは、小・中学校ともに1クラス20人編成でした。小学生に宿題を出すことは禁じられていました。中学校では部活動もない。授業時間も少ないし、塾という存在がないので、特に小学生はのびのびしていました。自分も日本で教育を受けたので当たり前だと思っていましたが、運動会や学芸会、入学式や卒業式など親が参加する行事がほぼないことは新鮮でした。“親のために子どもがパフォーマンスする行事”はあまりいらないと思います。学校の教員の業務負担が減り、先生たちも子どもたちも学習に注力できると思うのです。
日本では、子どもは宿題や塾の勉強、部活動に習い事など、膨大なタスクに追われている印象です。子育てにお金がかかりすぎます。義務教育でも隠れ教育費があり、学校以外の教育費の重さから “子育て罰”という言葉があるほどです。子育て世代を財政的に支援するだけでは少子化は止まりません。若年層が長期的に安心して働ける経済政策が必要です。少子化に歯止めをかけた国々に習って、教育分野への公的資金の支出の優先度を上げなくては。子どもは未来そのものであり社会全体で育てるという社会的合意と政治が必要です。
――日本の子どもは幸福度や自己肯定感が低いという話が出ましたが、子どもたちがこれからの社会を幸せに生きていくには、どんなことが必要だと思いますか。
人と共同で何かを成し遂げる体験を積み重ねることでしょうか。地方自治は民主主義の練習場とよくいわれるのですが、学校もまさにそう。教員とともに子どもたちが訓練できる場です。例えば、納得のいかない校則を変えるために何ができるのか動いてみる。その時に、“自らが主権者である”ということを子どもの頃から感じられるように、周りの大人は支援することが大切です。「自分たちが社会をつくり、変えていける。それが自分の幸福度につながっている」という実感をどれだけ持てるか。そのためには大人が、子どもが権利の主体者であることを十分に理解する必要があります。子どもの自己決定権や自己表明権の理解を地方自治の中で深めたいと思っています。現在他自治体から学びながら「(仮称)杉並区子どもの権利に関する条例」の制定に向けた準備を始めています。

現在、区役所内や地域社会の中でまちづくりや公共施設のあり方の議論が進んでいます。その中で“子どもの視点”でまちづくりを考えよう、とか子どもの意見を聞こうという機運が高まっています。
子ども一人ひとりの特性を尊重する多様な居場所づくりを進めることは、すべての人に優しいまちにつながると思います。また、女性・外国人・障害者・マイノリティーなど多様な人々へのエンパワーメントも欠かせません。“多様性”は大きな力になります。今後の社会における大切なキーワードなので、引き続き向き合っていこうと思います。
(文:せきねみき、編集部 田堂友香子、写真:風間仁一郎)
東洋経済education × ICT編集部
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