杉並区初の女性区長・岸本聡子、「日本は子育てにお金かかりすぎ」と危惧する訳 「児童館廃止」へ向かう社会に感じた違和感

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日本と違い、欧州では頻繁に政権交代するので、政治が変われば生活が変わることを国民が身をもって感じています。とくに子育てを含む福祉政策は影響が大きい。海外にいたからこそ得られた知見は、杉並区の政策テーマ「さとこビジョン」に生かされています。子どもの権利の擁護や性の多様性の尊重を地方政治から積極的に進めていきたいと思いました。

選挙の論点で「児童館廃止」に反対した訳

――選挙の際、児童館廃止の是非について議論が巻き起こり、大きな注目を集めました。改めて、区長としての考えをお聞かせいただけますか。

児童館を存続させるか、解体して学校内に組み込むか。放課後を子どもがどうすごすかは保護者にとって大きな関心事です。児童館が選挙の論点になったことはめずらしいかもしれません。子どもの視点に立って、学校や家庭以外の子どもたちの居場所が必要という認識が広がったのだと思います。

学校や家庭以外の居場所、サードプレースの存在は、子どもたちの幸福度に直結します。児童館はサードプレースの象徴。児童福祉を心得た職員に見守られ、赤ちゃんから高校生まで、子どもたちが自由に、安全に過ごせる施設です。一度なくなったものを作り直すことは困難です。建物の老朽化などの問題はありますが、それらに対処するときに全面的な児童館の廃止が行政からのトップダウンで進められたことに多くの人が違和感を持ったのだと思います。児童館を廃止ではなくアップデートすることもできると。

従来、杉並区の多くの児童館には学童クラブが併設されています。児童館をなくして学童や放課後の遊びを学校内に移転するという計画が進みました。児童館は児童福祉の拠点として区職員が職務にあたりますが、学校内の居場所は民間事業者の委託事業になることもこの計画の特徴でした。委託事業者は広い学校内で子どもたちの安全を守るために管理的にならざるをえません。学校にいきづらい子どもたちもいます。そんな中で、18歳未満の子どもすべてが自由に利用できる児童館の存在意義が、国の議論で再認識されています。

――「さとこビジョン」には児童館のことだけでなく、ジェンダー平等についても記されていますが、女性区長としてどのような点にジェンダーギャップを感じていますか

女性首長の割合が圧倒的に少ないですね。首都東京都のトップに小池百合子都知事が就いたことは大きな意味があったと思います。例えば、男性知事のもとで育児は、「未来を担う子どもを育てる大切で尊い仕事」とする「育業」という言葉は生まれなかったでしょう。

昨今の選挙で23区で女性区長が6人となりました。私が就任する前は長い間足立区の近藤弥生区長ただお一人でしたので、23区区長会の景色は大きく変わりました。私は、首長をはじめ政治に女性が挑戦することへの垣根は高いと感じます。女性は根強い性別役割分業の中で子育てや高齢者の介護など、家庭の中のケアワークを多く担っています。自分のキャリアよりも家族全体のありようを優先する習慣が内在化されています。家庭内での家族のケアの共有や長時間労働の是正など、女性がリーダーシップを発揮できる社会的な土壌を生み出さなくてはなりません。

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