地方の生徒たちには、情報が不足している

石川県の金沢高等学校と連携して、4月から僕らカルペ・ディエムは「難関大合格プロジェクト(東大生特別講座)」をスタートしました。1・2年生の難関国公立大学現役合格を目指すSコースを対象に、1年生は年10回、2年生は年5回の講座を対面とオンラインで実施する予定です。

さて、この記事を読んでいただいている方々に1つ質問です。同じ日本の高校でも、東京や大阪などの都心の高校と、それ以外の地方の高校とで、大学受験という観点においていちばん違うポイントは何だと思いますか? われわれはよく地方の高校のお手伝いをしていますが、地方の子は学力や思考力などの面で見ると、都心の子と比べても賢い子が多く、非常に可能性のある子が多いと思っています。

都心の子は斜に構えている生徒も多いのですが、地方に行くと素直にわれわれの話を聞いてくれる子も多く指導しやすいです。生徒の可能性という面では、都心の高校と地方の高校とで差はないといえます。しかし、それでも決定的に、大学受験という観点において地方の子が背負っているハンディキャップがあります。それは、情報の差です。

都心の子たちは、さまざまな受験情報を得る場があります。単純に生徒の数が多いので、コミュニティーで受験情報が入ってきやすいです。いろいろな塾に行けば東大生をはじめとする難関大学の学生と会うことは容易です。ですが、地方の生徒たちには、情報が不足しています。

西岡 壱誠(にしおか・いっせい)
現役東大生。1996年生まれ。偏差値35から東大を目指し、オリジナルの勉強法を開発。崖っぷちの状況で開発した「思考法」「読書術」「作文術」で偏差値70、東大模試で全国4位になり、2浪の末、東大合格を果たす。そのノウハウを全国の学生や学校の教師たちに伝えるため、2020年に株式会社「カルペ・ディエム」を設立。全国5つの高校で高校生に思考法・勉強法を教えているほか、教師には指導法のコンサルティングを行っている。また、YouTubeチャンネル「スマホ学園」を運営、約1万人の登録者に勉強の楽しさを伝えている。著書『東大読書』『東大作文』『東大思考』(いずれも東洋経済新報社)はシリーズ累計38万部のベストセラーとなっている
(撮影:尾形文繁)

大学受験を目指す生徒にとって英検はどれくらい大切な資格?

例えば、金沢高校にお邪魔して最初の講義で、僕は生徒さんたちにこんな質問をしました。「英検って、大学受験を目指す子にとって、どれくらい大切な資格なんだと思う?」と。

これに対して、生徒さんたちの多くは「え? 大学受験に英検って必要なの?」と言っていました。

現在、選抜入試を受けるときには、英検を持っているかどうかによって受けられる大学が大きく変わってきます。英検準1級を持っていないと合格が難しくなる大学・学部はとても多いのです。また、一般入試で受験をする際にも、英語の試験を英検で代替できる大学も増えてきました。ここ数年で、英検は取っておかないといけない資格になってきているのです。

都心の子は、何となくこういった情報は入って来やすいです。「なんかよくわからないけど、英検取っておくとすごくいいらしいよ」「まじ? じゃあ取っとこうかなあ」というようなトークが日常会話のレベルであるわけです。しかし、地方の子には、なかなかそういう情報が入って来ません。

金沢高等学校「難関大合格プロジェクト(東大生特別講座)」の様子。詳しくはこちら

そしてそれは、ロールモデルの不足ということにもつながってしまいます。都心部の学生は、「東大を目指そう」と思っても、「近所のあのお兄さん、東大に行ってたよな」とか「うちの高校の先輩、そういえば東大を目指していたな」とか、そんなふうにロールモデルがいます。ですが、地方の学校だと、「東大を目指そう」と思っても、近くにロールモデルがいないのです。

ロールモデルがいれば、「じゃあ、こんなふうに勉強して、これくらい勉強すれば合格できるはずだ」と思えます。でも、ロールモデルという意味での情報が不足していると、「そもそも自分なんかが目指していいのかな?」と思ってしまいがちです。

情報の不足は、ダイレクトに、目指す大学の選択肢を狭めてしまうのです。同じくらい可能性のある子たちでも、情報の非対称性によって、将来が狭まってしまう。こんなに悲しいことはありません。

「優秀なのに選択肢を狭めてしまう生徒」さんのロールモデルに

だからこそ、われわれは金沢高校で「難関大合格プロジェクト(東大生特別講座)」を実施することにしました。金沢高校さんは、本当に優秀な生徒さんが多いです。ですが、僕は学校さんの力だけでは難しい部分もあると思っています。それは、ロールモデルです。生徒たちにとってのロールモデルが少ないから、優秀であるにも関わらず将来を狭めてしまう生徒が多いと感じました。

そんな高校で、講師になるのは、東大生です。

それも、偏差値的には低いところから逆転合格した東大生や、地方から東大に合格した、つまり「情報不足から東大に合格した」学生を多くアサインしています。お兄さん・お姉さんとして、高校生たちのロールモデルになってもらうためです。

その中で、われわれは受験に必要な情報を惜しみなく提供しようと思います。どれくらい勉強して東大に合格した人が多いのか? どんな参考書で、どんな勉強をすればいいのか? 高校2年生・3年生の一定の時期までに、どれくらいの成績になっていればいいのか? こうした情報を生徒に提供していきます。

地方から東大に来た大学生から「自分もこの情報がなくて苦労したけど、こうやって調べたよ!」ということも教えてもらいます。偏差値が低いところから東大に来た大学生に話を聞いて、「自分でも、目指せるかもしれない」と思ってもらうこともあると思います。

「難関大合格プロジェクト(東大生特別講座)」では、そういう東大生たちが何度も学校に行くことで、生徒たちが「行ける大学ではなく、行きたい大学を目指す」ということができればと考えています。

(注記のない写真:カルペ・ディエム提供)