南極に行った美術教諭が語る「教室を飛び出す学び」と「柔軟な働き方」の重要性 話題の「神山まるごと高専」で新たな挑戦開始

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ただし、注意も必要だ。テンプレートに素材をはめ込むだけで発表ができる便利なICTツールが多いが、「生徒が少ない選択肢から選ぶだけの“テンプレ依存”が増加し、逆にクリエーティブな力が失われるという状況が起こり始めているのではないか」と新井氏は危惧している。

「今後、教科横断や学び合いにつながるようなクリエーティブな教育をいかに行うかがより問われるでしょう。Chat GPTなどテクノロジーの進展が加速する予測不能の時代においては、人が根源的に持っているものづくりの資質やデザインの要素が求められると思うからです。現在、美術教育にはスポットが当たりにくく、教員も1人教科ならではのさまざまな苦しさを抱えているという課題もありますが、ICTの上手な活用により、日本独自の面白さにあふれた教育が可能になっていくと思っています」

神山まるごと高専でも「教室を飛び出す学び」を実践

新井氏は今、2023年4月に徳島県山間部の神山町に開校したばかりの神山まるごと高専に勤務している。同校は、Sansan創業者の寺田親弘氏が設立し、企業からも注目を集める高専だ。

毎日楽しく過ごしていたが、常々「環境を変えてさらに自分自身が学ぶ必要を感じていた」という新井氏。「テクノロジー・デザイン・起業家精神」の学びを柱とする新しい高専ができるという話を知人から聞き、「これだ!」と直感でエントリーを決めたという。現在は単身赴任の形で徳島県に移り、学生と同じ寮で生活しながら教壇に立つ日々を送る。

2つの教科を担当しており、アートを学ぶ「表現基礎」では、本格的なデッサンのほかに立体造形や油絵の制作を行うほか、アーティストを招いて現代美術について学ぶ機会なども設ける。

本格的なデッサンも行う

ここでも教室を飛び出す学びを実践している。神山町の山中には、町内に滞在して作品を制作する「神山アーティスト・イン・レジデンス」に参加したアーティストの作品が点在しているため、校舎裏の大粟山に出かけて作品を見て回り、「アートとは何か」などを皆で考えた。校名のとおり、まさに神山町をキャンパスと捉え“まるごと”学ぶことを体現した実践だ。

学校裏の大粟山に出かけ作品鑑賞と自然観察

もう1つの「グラフィックデザイン」は、UIやUX、写真、映像など、デザインを体系的に学ぶ科目。PhotoshopやIllustratorなどを使いこなすスキルを身に付け、色や形、レイアウトといった要素に着目しながらデザイン思考を育み、実践的な内容を展開していく予定だ。

グラフィックデザインの授業風景(上)。「地図文字タイポグラフィ」をIllustratorでトレースしてベクターデータを作成(下)

「本校が目指す人物像は明確で、『モノをつくる力でコトを起こす人』を育てたいと考えています。立場が異なる人たちとつながって新しいことを生み出していくには、それぞれの思いやスキルを広く体験して同じ目線で対話できることが重要。そのためにも、とにかく手を動かすことを大事にしています」

神山まるごと高専でも、学生たちの作品や制作過程をウェブ上にまとめており、6月からは校内関係者であれば誰でもいつでも互いの作品を鑑賞できるようにしている。

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