イタリアの「元祖パノラマ」名車復活させた原動力 朽ち果てた車体復元、財源はどこから出ている?

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転機となったのは2013年。イタリア鉄道の歴史的遺産を保護・管理する目的で設立されたイタリア鉄道財団(Fondazione FS)が、後世へ残すべき車両としてETR252型を保護する決定を下したのだ。車両は同財団によって速やかに回収され、ひとまず盗難や落書きなどの被害から守るため建物の中へ収容した。資金のメドが立った2016年に、修復を請け負う民間企業の工場へ移送され、すぐに動態保存へ向けた修復工事が始まった。

ETR252型の復元工事は完成まで3年を要した。長年留置されていたアンコーナの車庫は海沿いにあり、海からの潮風が容赦なく吹き付けたことで、車体はかなり傷んだ状態だった。工場へ運ばれた後、まず基礎以外の車体の外板を全て剥がし、配線などもすべて撤去、ほぼゼロの状態から再構築した。

3年かけ修復完了、直後にコロナ禍が…

内装はオリジナルの状態を極力再現するため、シート生地は現代の基準を満たしつつ、当時の素材を忠実に再現。内壁に使う化粧板なども当時の色彩を保っている。その一方で、本線上を運行するにあたって現代の基準に適合させる改造も行われている。

ETE252型 前面展望
ETR252型の展望席の様子。最高時速160kmの前面展望は迫力満点だ(撮影:橋爪智之)

例えば信号保安装置には、イタリアの主要幹線で採用されている安全性の高いSCMTシステムを搭載、空調装置は最新のものへ交換し、各座席には充電用のサービス電源ソケット(コンセント)を設置している。また、それに伴い必要となる電源容量が不足するため、コンバーター(変圧器)も出力を向上させた新型に交換した。

3年間にわたる修復工事を終え、再びその姿を現したのが2019年だった。お披露目は同年6月27日、ローマで開催されたイタリア鉄道(FS)グループの観光計画発表の場で行われた。すぐに一般向けの公開運転がスタートすることが期待されたが、間もなく世界はコロナ禍によって大混乱へと陥り、運転再開は無期限休止の状態となった。

2021年へ入り、ようやくコロナ禍が少し落ち着きを見せ始めたことで、各国は自由な移動やマスク着用、ワクチン接種などの規制を緩和し始めた。

それに呼応する形で、アルレッキーノの一般向け公開運転開始がアナウンスされた。最初の運行は2021年10月3日、ボローニャ―ローマ間で実施され、チケットは発売開始と同時に完売した。その後、今年2023年に至るまで、年に数度の一般向け公開運転や、チャーター運用などに使用されている。

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