赤字鉄道、存続の秘訣は富山県「万葉線」で学べる 「鉄道は必要」、地域の「声なき声」を掘り起こせ

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当初のRACDA高岡の活動は、万葉線を切り口にまちを元気にすることをコンセプトに、市民の立場で万葉線を楽しむ「グルメツアー」などのイベント活動が中心だった。しかし、活動を続けるうちにRACDA高岡の会員から万葉線の存続運動につながる活動ができないかという声が出始め、1999年秋に会員による「万葉線再生計画案」がまとめられることになった。

加越能鉄道時代の万葉線(写真:永原健吾)

RACDA高岡では、こうしてまとめられた再生計画案をどう発信するべきか模索をしていたところ、ある会員から「自分たちで沿線住民の中に入り込んで発表してはどうか」という案が出された。そこで、会員のつてを頼りに沿線の自治会、婦人会や老人会など地縁の自治組織に自ら出向きこの再生計画案の発表を3カ所で実施。地域の課題や関心事をいっしょに考える場を各地に構築していった。地域住民との意見交換を重ねるうちに「赤字の万葉線を残せとは言いにくい雰囲気がある」「あきらめかけてはいるが本当は残してほしい」という地域住民の「声なき声」が多いことが次第に明らかになっていった。

RACDA高岡では、こうした「声なき声」を目に見える形にして存続の意思表示をすることが重要と考え「なくすな万葉線」というキャッチコピーのポスターを製作。特に新湊市連合婦人会の会長は「私たちも何か行動したかったが手立てがわからなかった」と組織力を活かして新湊市全域にポスター掲示運動を展開してくれたという。さらに署名活動にも発展し約1万5000人分の署名を集めた。新湊市では、1980年に市東部を走っていた富山地方鉄道射水線が廃止され、街が廃れていく様子を目の当たりにしていたことから、万葉線の廃止に対する危機感が強かったことが背景にあった。

万葉線存続から城端線・氷見線のLRT化提唱へ

さらに、岡山市のRACDAの協力を得ながら全国のLRT推進団体にRACDA高岡から「万葉線SOS」と題した手紙を送り、高岡市、新湊市の各市役所と富山県庁宛に嘆願書の送付を依頼。全国各地から万葉線の存続運動に協力したいという回答が届いたことがテレビや新聞でも報道された。こうした活動の広がりにより「各市議会議員なども万葉線存続運動の認識が広がっていった」という。

2000年9月に行われた万葉線問題懇話会で当時、高岡短期大学学長だった蠟山昌一氏から全国に先駆けた「社会的便益」を理由とした経済学に基づいた科学的な説明による存続提言がなされたことで「鉄道単体では赤字でも地域社会全体ではメリットがある」とメディアや世論の風向きを万葉線廃止から存続へと変えた。さらに当時最先端であった官民協働での合意形成がなされ2000年末に万葉線の存続が事実上決定。2002年4月に加越能鉄道万葉線は高岡市、新湊市、富山県の出資による第三セクター路線化され万葉線の存続が実現。2004年からは超低床電車「アイトラム」も導入された。

小神氏は「活動に参加する多くの方々はもちろん、テレビ局や新聞社などのメディアとの信頼関係についても積み重ねがあったからこそ万葉線の存続が実現できた」と話す。

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