部活動の地域移行は「ゼロか100」の暴挙、人材失う危険や「文武両道」の破綻懸念 賛成派・反対派双方の声から考える真の争点

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公立中学校の部活動の地域移行に向けた動きが2023年度から本格化する。だが、この動きに対しては賛成派と反対派がいる。そもそも部活動の地域移行とは何か。賛成派と反対派双方の声に耳を傾けたうえで、この問題の先行きを見通してみた。

部活動の地域移行、背景は少子化と教員の働き方改革

2022年6月、スポーツ庁の有識者会議は、公立中学校の運動部における休日の活動から地域など外部に移行することを提言した。運動部の活動を地域が担う方向へ変えていこうというものだ。

その背景には大きく2つの問題がある。少子化と教員の働き方改革だ。少子化が進んだ結果、野球やサッカーなどの競技では生徒数が不足してチームを組めず、1校単独では部活動が成り立たなくなるケースが出てきている。地方ではとくにそうした傾向が強い。少子化が今後さらに進めば、この傾向もますます顕著になるはずだ。

一方、ただでさえ長いとされる教員の労働時間の大きな要因として挙げられるのが部活動だ。平日は放課後、ときには夜まで部活動の指導をし、土日や休日には試合や大会などへの引率をしなければならないこともある。現在は愛知県一宮市立小学校の教員で、過去に中学校教員として勤務していた加藤豊裕氏が実情を話す。

加藤豊裕(かとう・あつひろ)
愛知県一宮市立小学校教諭
「全国部活問題エンパワメント(PEACH)」代表
「IRIS(アイリス・愛知部活動問題レジスタンス)」代表
(写真:東洋経済撮影)

「大学卒業後最初に着任した中学校ではハンドボール部の顧問をしました。以後、異動しながら合計11年間運動部の顧問をし、その後に2年間文化部の顧問をしました。最初の頃は、顧問の任命が単なる『お願い』なのか業務命令なのかも認識できておらず、当たり前のことだと思っていました。しかし、あまりの忙しさにだんだんと嫌気が差してきて、今から約6年前、校長に顧問を拒否すると伝えました」

以来、部活動との関わりを持っていない加藤氏は、部活動問題の解決を目指す団体「全国部活動問題エンパワメント(PEACH:Passionate Empowerment Against Club Harassment)」を設立して代表を務め、愛知県では部活動問題に特化した教職員組合「愛知部活動問題レジスタンス(IRIS)」も設立している。

加藤氏は部活の地域移行に関しては、基本的に賛成の立場だ。「現状のように、教員に過剰な負担を強いながら報酬も払わない部活動なら、学校から切り離すべきだと考えます。部活動が学校教育の一環だというのなら、原則として時間外勤務が生じないように、活動は週に1~2回、それも1回1時間程度にして、土日は活動しないという本来の姿に戻すべきです。そうでないなら、時間外勤務の命令はそもそも給特法に違反しており、そして違法な命令は無効ですから、従う義務も発生しません」

では報酬の問題が解決できれば、今のままでもよいのか。

加藤氏は「現実的に継続はほぼ不可能です」と語る。「教員の勤務時間は7時間45分と定められています。しかし学習指導要領が肥大化した現在、正規の仕事をこなすだけでその時間を超えてしまうのです。そこに部活動を入れる時間的余地はありません。教員の数を現状の約2倍に増やせば可能かもしれませんが、この国は教育にお金をかけたがりませんから、実際には無理な話でしょう」

部活動が地域移行すると「学校に通う楽しみ」が失われる?

一方で、部活動は学校教育の一環だからこそ意味があると考え、地域移行に反対している人も多くいる。トレーニングコーチとして現在20校以上の部活動に関わっている塩多雅矢氏も、その一人だ。

「私が見ている中学や高校の運動部は、決して強豪校というわけではありません。先生方が私に指導を依頼するのは強いチームにするためではなく、あくまでも生徒の人間的な成長を望んでのことです。正しいトレーニング方法を通して、うまくなりたいけれどつまづいている子に少しでもヒントを与えて自分で乗り越える機会を与えたいのです。この発想は、学校教育の一環だから出てくるものだと思います」

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