新総裁に植田氏起用の報道で円急伸、債券売り 同氏の金融スタンス不明でとりあえずの円買いか

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10日夕刻の東京外国為替市場で円が急伸している。日本銀行の新総裁に植田和男氏を起用する人事を政府が固めたとの報道を受け、円買いが強まった。長期金利は上昇し、日銀が金融政策で上限としている0.50%を付けた。

日銀総裁に植田元審議委員を起用、副総裁に内田、氷見野両氏-報道

政府は日銀の黒田東彦総裁の後任に経済学者で元日銀審議委員の植田和男氏を起用する人事を固めたと日本経済新聞が10日報じた。情報源は明示していない。政府は黒田氏の後任総裁として雨宮正佳副総裁に当初打診したが、雨宮氏は辞退したという。副総裁には内田真一理事、氷見野良三前金融庁長官を起用するとしている。

植田和男氏Photographer: Akio Kon/Bloomberg

大和証券の石月幸雄シニア為替ストラテジストは植田氏について、速水総裁時代の審議委員でどう反応していいか分からないというところではないかと指摘。「雨宮氏ではないということで、とりあえず円を買っておくという感じではないか」と話した。

外為どっとコム総合研究所の神田卓也調査部長も、ハト派という風に受け止められていた雨宮副総裁ではなかったということで円買いになっていると指摘した。あまり偏った印象はないが発言を聞いてみないことには評価しづらいとして、特にイールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)をこのまま続けるのが難しい中で、どういう形で修正を図っていくかは発言から読み取りたいとした。

債券・株式

債券相場は下落。新発10年国債利回りは日銀の許容幅上限の0.5%を付けた。野村証券の松沢中チーフストラテジストは電話取材で、次期日銀総裁として元審議委員の植田氏を起用する人事を固めたとの報道について、金融政策スタンスが不透明で金融市場はひとまず円買い、債券売り、株売りで反応せざるを得ないだろうと指摘した。

株式市場では植田氏の日銀総裁起用報道を受けて日経平均先物に売り注文が一時膨らんだ。2万7650円近辺で取引されていた先物3月物は報道を受けて2万7400円を下回る水準まで下げる場面があった。その後は下げ幅を縮小している。

市場の見方

<為替>

りそなホールディングス市場企画部の梶田伸介チーフストラテジスト

  • かつての岩田-翁論争の時の経験則からも、極めてバランスの取れた人選
  • そこまでタカ派とかハト派という色もなく、必要な正しい政策をとるだろうという期待はある。金融政策に対する色がないということで、極端な変更などもないだろう
  • 副総裁の顔ぶれを見ても、バランスが取れている。政策の継続性という意味では内田理事が入ったことも安定をもたらすと思う
  • 市場は雨宮氏への期待があったため、相対比較で円高に反応しているが、今後の発言を見る必要はあるものの、円高の動きも落ち着いていくのではないか

三菱UFJ銀行グローバルマーケットリサーチの井野鉄兵チーフアナリスト

  • 初期反応は円買いになっているが、この方向で決め打ちするかどうかは所信聴取などを待たなければならない
  • 週初に雨宮氏に打診したとの報道があり、それを真に受けていたマーケットがあったわけで、そうでない人が選ばれたということが円買いになっているということだろう
  • 植田氏自身がタカ派かハト派かというと、決してタカ派ではない気がする
  • 人物像から考えるとなぜここまで反応するのかと正直思わなくもない
  • ただ、過去の発言からすると今のままで良いという感じではおそらくないと思うので、何らかの政策修正をする方向ではあるのだろうという連想が働きやすいところはある

三菱UFJモルガン・スタンレー証券の植野大作チーフ為替ストラテジスト

  • 日銀総裁への起用が報じられた植田氏の印象について「未知数」だ
  • 為替が円高に動いている理由は雨宮副総裁ではなかったことが要因。雨宮氏に打診という報道で週初に1円くらい円安が進んだこともあり、それが巻き戻された動きだ
  • 未知数な分、植田氏だからYCCが解除されるとか、マイナス金利が撤廃されるとは言えない状況
  • 一般的な印象として、学者の総裁ということで政治的圧力から離れたところでスクエアに政策を判断できるイメージはある
  • この週末で植田さんの過去の発言などを精査する形になるが、今の経済物価情勢に合わせてどう考えているかは、24日に予定されている国会での所信聴取を待つしかない
  • それまでは不透明感から円買い圧力というのはありそうだが、一方で米国の金融政策に目が向きやすくもある
  • 少なくとも今はまだ植田さんだから、円売り/円買いとはならないだろう

<債券>

SMBC日興証券の森田長太郎チーフ金利ストラテジスト

  • 金融政策に関しては国内経済学者の中では第一人者であり、候補として名前が挙がった複数の副総裁経験者とそん色はないため政策判断に不安はないが、ボードメンバーや日銀内部をまとめるリーダーシップや、政治との調整力については不安が残る
  • 岸田政権の意向も伝わっているだろうし、大きな方向性として金融政策の正常化に向かうことが予想される
  • 株式市場や多くの政治家にとっては「植田氏って誰」といった感じかもしれないが、債券市場ではなじみのある存在で、相場への影響は中立的だろう

大和証券の岩下真理チーフマーケットエコノミスト

  • 植田氏は2022年7月の日経新聞に「拙速な引き締めを避けよ」と寄稿しており、慎重にファンダメンタルズを見極めて判断していく方だ
  • 副総裁2人については、いずれも国際派で、世界へ質の高い情報発信をしてくことが見込まれる。企画畑でもある内田理事、ブルーデンスの氷見野氏と強力なメンバーで頼もしい
  • 市場は雨宮副総裁で円安に反応していた分、そうでなかったので反対の動きとなった印象
  • 実際に所信聴取の発言を聞けば、政策運営はファンダメンタルズを重視し、慎重に判断していくことがわかるように思われる

<株式>

T&Dアセットマネジメントの浪岡宏チーフ・ストラテジスト

  • 雨宮正佳氏や中曽宏氏といった黒田体制でアベノミクスに深く関与した人ではない人が出てきたことで、アベノミクスの流れはこれで変わるのではないか
  • マーケットは雨宮氏だと楽観していた部分が後退したのだろう
  • アベノミクスの期待で株価を持たせている部分はあったが、これがはく落することになりそうだ
  • 植田氏が非常にハト派ということでなければ株価には下落圧力がかかるだろう

三菱UFJモルガン・スタンレー証券の藤戸則弘チーフ投資ストラテジスト

  • 市場は雨宮氏が次期総裁になることを想定していた
  • 植田氏がどのような政策をとるかはさておき、雨宮氏が引き継ぐという期待を高めてしまった政府の対応は、少し不手際な感じがする
  • 来週の月曜日、株式市場は安く始まるだろう

(更新前の記事は為替の騰落率を訂正済みです)

--取材協力:、、、、、.

(末尾に市場参加者の見方を追加して更新します)

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著者:小宮弘子、船曳三郎

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