「FRBは年内に利下げする」と決めつける人の死角 インフレは本当に早期に沈静化するのか?
そのカギを握るのは、サービス価格の動向となりそうだ。これについては、パウエル議長自らが「注目している」と口にすることも多い。先述のCPIでも、エネルギーを除くサービス価格は前年比7.0%上昇と、前月を上回る伸びとなった。これで2021年3月以降、連続して伸びのペースが速まっており、FRBが警戒するのも当然だろう。
インフレ圧力が強まった2022年前半には、ロシアによるウクライナ侵攻などでエネルギー価格をはじめとした商品価格の急騰が物価上昇を主導した。だが、いまや主役はサービス価格に取って代わられたというのが実情だ。
サービス価格はエネルギー価格などのように激しく変動することはない。だが、その分一度上昇を始めると、簡単には沈静化しないという厄介な側面も持つ。家賃や帰属家賃も高止まりを続けていることにも注意が必要で、こうした数字を見ている限りでは、インフレもこれ以上は簡単に減速しそうにない。
また、労働市場が依然好調さを維持していることも、インフレに対する過度な楽観論への警鐘になる。
12月の雇用統計(1月6日発表)では、非農業雇用数が前月から22.3万人と、予想を上回る伸びを記録した。確かに、時間当たり賃金の伸びが予想を下回ったこともあり、市場では発表後にインフレ圧力の後退に期待する動きが加速した。だが、それでも賃金は前年比4.6%の上昇という、高い水準を維持している。
最近はハイテク大手や金融機関などを中心に、大規模な人員削減の発表が相次いでおり、雇用市場はいずれ悪化しそうだ。だが、雇用の先行指標とされる失業保険申請件数を見ると、悪化の兆しはまだ見られていない。「少なくともあと2~3カ月は雇用市場が好調を維持する可能性が高く、その間は賃金も高止まりする」と見る向きもあり、注意が必要だ。
「中国の経済再開」によるエネルギー価格上昇にも注意
「インフレ高止まり懸念」の材料はこれだけではない。中国要因だ。新型コロナウイルス感染に関する規制を急速に緩めた同国で経済活動が急回復するとの期待が、エネルギーをはじめとした商品市場を再び押し上げるシナリオが、現実味を帯びている。
原油価格の指標であるWTI原油先物価格は、年初に一度1バレル=70ドル台前半にまで急落する場面が見られた。だが、その後はしっかりと買いが集まり、現在は80ドル台前後にまで回復している。これは中国の需要回復が大きい。また、この先欧米による制裁措置により、ロシアの石油輸出が一段と減少するとの懸念も価格を下支えしている。昨年後半のインフレ圧力の後退は、原油をはじめとした商品価格の急落によってもたらされたことを考えれば、原油価格の下げ止まりから再上昇で再びインフレ圧力が強まることも、十分にありうる。
パウエル議長は「インフレが十分に鎮静化し、われわれが物価の先行きに自信を持つことができるようになるまで、利下げに転じることはない」と明言している。
もちろん、楽観的な市場予測のように、この先も本当にインフレ圧力が弱まっていくのであれば、早い時期の利下げも実現するかもしれない。だが、上述のようなリスクがあることを考えれば、そこまで楽観的にならないほうがよいだろう。少なくとも、サービス価格の伸びが鈍り、数カ月連続して前月を下回ってくるようになるまでは、インフレ終息という判断は下さないほうがよいと考える。
(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)
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