利回り曲線研究で景気後退当てた経済学者の予想 米経済は深刻な落ち込みを回避することができる
米シカゴ大学で博士号を取得した経済学者のキャンベル・ハーベイ氏が、債券利回りの形状が米経済活動の道筋とリンクしていることを示す論文を数十年前に発表して以降、その分析の正しいことは事実によって裏付けられてきた。
1960年代後半以降のリセッション(景気後退)を見ると、イールドカーブ(利回り曲線)の逆転がそれに先立って生じていた。そして、始まったばかりの2023年に話を早送りすれば、まさにそうした現象が1カ月半ほど米国債市場で続いている。
だが、現在は米デューク大学経営大学院の教授(金融論)を務めるハーベイ氏は、米経済の成長鈍化がやや長引くとしても、今回の場合、深刻な落ち込みを何とか回避することができるのではないかとみている。
ハーベイ氏は3日のインタビューで、「私のイールドカーブ指標は厳戒警報を発している。1968年以降、8回のリセッションを正確に予測し、誤った警報はなかった」としつつも、「今は誤ったシグナルを発していると信じる複数の理由がある」と語った。
米財務省短期証券(TB)3カ月物利回りに対する10年債利回りのスプレッドは2022年5月に一時234ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)に達したものの、12月にはマイナス100bp程度にまで逆転が進んだ。ハーベイ氏の研究が根拠とするこのスプレッドは11月半ば以降、一貫して逆イールドの状態にあり、4日はマイナス82bp前後で推移した。
1968年以降で9回目の逆イールドだが、ハーベイ氏は今回は恐らくリセッションの前触れではないだろうと話す。理由の一つに同氏が挙げたのは、イールドカーブと成長との関係が非常によく知られるようになり、一般のメディアでも広く取り上げられて、今では行動に影響するようになった事実だ。
こうした認識が広がることで、企業や消費者は貯蓄を積み増して大型投資プロジェクトは見送るといったリスク軽減の行動を取るようになり、経済にも良い前兆となっている。
経済を押し上げるもう一つの柱は労働市場だ。現在は労働力需要が供給を上回り、レイオフされた労働者は通常よりも早期に新たな職を見つける公算が大きい。さらに、これまでの雇用削減の最大部分がテクノロジー分野であることを踏まえると、最近解雇されたこうした高技能労働者の場合、失業期間が長期化しない傾向があることも同氏は指摘した。
ハーベイ氏のモデルはインフレ調整後の利回りにリンクしており、インフレ期待が逆転状態にあって、トレーダーが先行きの物価圧力の緩和を見込んでいるという事実も、将来的なリセッションの確率を低下させる要因となっている。
辛うじてリセッション回避
同氏は「これらを総合すると、辛うじて問題を回避できることを示唆する」とし、「ハードランディングを逃れ、緩慢な成長もしくは軽度のマイナス成長を実現することを意味する。リセッションになったとしても、軽度のものだろう」とコメントした。
実質利回りの水準もリセッションのシグナルに疑問を投げ掛ける。それぞれインフレ調整後で見ると、米10年債利回りは3カ月物利回りを大きく上回っていると推計される。
ハーベイ氏の見解はコンセンサスではない。インフレ退治に向けた米金融当局による過去数十年ぶりの積極利上げを背景に、ウォール街の金融機関の多くは23年中もしくは24年の早い時期のリセッションを見込んでいる。
グリーンスパン元連邦準備制度理事会(FRB)議長は3日、米リセッション入りが「最も可能性の高い結果」だと話し、ダドリー前ニューヨーク連銀総裁も同様の予想を示した。
一方でハーベイ氏にとって、米経済がリセッションを回避することができたとしても、自身のモデルが誤りであることを意味しないという。
同氏は「科学では常にモデルを活用し、それは現実を単純化したものだ」とした上で、「科学者の技能の一部はモデルをいつ運用し、いつ運用しないか判断することであり、換言すればモデルの限界を知ることにある。それが私のモデルであることを踏まえれば、その限界をよく知る立場にあるだろう」と述べた。
なお同氏は不確実要素として、利上げ開始で後れを取った米金融当局が過度の引き締めに動く可能性に言及した。
米金融当局者は先月の連邦公開市場委員会(FOMC)会合でフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを4.25-4.5%に引き上げるとともに、最新の四半期経済予測では23年末時点のFF金利見通しを5.1%に上方修正した。
4日に公表されたFOMC議事要旨でも、インフレを押し下げる当局の決意が確認されることとなったが、ハーベイ氏は「引き締めを終えるタイミングは今だと確信する」と語った。
原題:Pioneering Yield-Curve Economist Sees US Able to Dodge Recession(抜粋)
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著者:Liz McCormick
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