約20年当事者と家族を支援、臨床心理士が考える「不登校の子の進路選択」 世間体や学力で決めず「学校を活用する」視点を
不登校を経た子の将来は? 学校の体制や社会が変わる必要も
現在、法律関係の仕事とボランティアに奔走する福本氏のお子さんは、「不登校の経験があったから人生はいつも順風満帆ではないとわかるし、社会的弱者と呼ばれる人の立場に立って物事を考えられるようになった」と語っているそうだ。
こうした思いを持つ人は多いのか、福本氏が見てきた子の半数は対人援助の仕事に就いており、臨床心理士や公認心理師、介護福祉士のほか、教員やスクールカウンセラー(以下、SC)、スクール・ソーシャル・ワーカー(以下、SSW)など学校現場を選ぶ人もいるという。このほか一般企業に就職する人も多く、週に数日の出勤でOKとするIT企業などに勤め、通信制の高校時代と似た生活ペースを維持する人もいる。
「不登校を経た社会人は、援助を受けながら立ち上がった経験があるので、社会に出てうまくいかないことがあっても自ら誰かに助けを求めてやり直せています。親御さんもお子さんが無理をしているのがすぐわかるのでサポートしやすい。だから、今不登校でつらい思いをしているお子さんや親御さんには、焦らず休むことを大切にしてほしいと思います」
文部科学省の全国調査によれば、2021年度に不登校だった小中学生は24万4940人と過去最多。背景には、学校現場の事情や社会情勢も絡んでいると福本氏はみている。
「教員の激しい叱責を機に子どもが不登校になるケースもよく見てきましたが、『あるべき姿』を重んじる文化や先生の余裕のなさにも要因があると感じます。とくにマンパワーが足りません。コロナ禍で家庭の事情も多様化しており、1人ひとりに対応するには学級人数をもっと減らすほか、SCやSSWの配置のさらなる充実も必要でしょう。先生向けにSCやSSWの活用法を伝える研修も行うべきだと思います」
不登校で「学校内外の機関等で相談・指導等を受けていない児童生徒」は36.3%に上る(文科省調査)が、年齢が上がるほど支援につながれず引きこもってしまう傾向は高まるという。そこで福本氏は22年6月から「家族支援ネット♪らるご♪」を立ち上げ、高校中退や退職などを機に動けなくなってしまった人とその家族の支援も始めている。スタッフは臨床心理士、公認心理師、社会福祉士、キャリアカウンセラーと全員が専門職、かつ自身や家族が不登校を経験した元当事者であり、家族関係の修復や就労などの相談に乗る。
エネルギーを失ってしまった人たちの支援を続ける福本氏は、今の社会構造の歪みについても指摘する。
「不登校や引きこもりの解消には、社会システムが競争ではなく人間形成を重視した方向へ変わる必要もあると感じています。理想を言えば、大学まで教育費が無償だと親も焦らず子どもを見ていけるでしょうし、進学も就職も誰もがゆっくり考えていける仕組みになってほしいと思っています」
(文:編集部 佐藤ちひろ、注記のない写真:Fast&Slow/PIXTA)
東洋経済education × ICT編集部
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