約20年当事者と家族を支援、臨床心理士が考える「不登校の子の進路選択」 世間体や学力で決めず「学校を活用する」視点を
周囲に休むことを認めてもらえると、背側迷走神経が「凍りつきモード」から「休息モード」に変わり、その後にもう1つの副交感神経である腹側迷走神経が働き始めて人と交流できるようになる。そして、しだいに交感神経もポジティブに働き出し、やりたいことに取り組めるようになっていくという。
「つまり、心のエネルギーの回復とは、自律神経のバランスが整いストレス耐性領域が広がっていくこと。神経生理学の観点からも、不登校の子は十分に休ませる必要があるのです」
無理をしない生活の中で、やりたいことを見つける子は多い
福本氏によれば、友達・先生との関係性やいじめなどの理由が複合的に重なる中、何かがきっかけとなり学校に行けなくなるケースがほとんどだという。
中高一貫の進学校への入学が引き金となるケースも少なくない。受験が終われば楽になれるからと頑張って合格したものの、入学後もハードな勉強に追われて心が折れるのだという。学力上位層であるほどプライドもあり心の傷は深く、登校しぶりの時期にゲームにはまって親子関係が悪化し、不登校になってからの回復に時間がかかる場合もよくあるそうだ。
いずれにせよ、不登校は強いストレスの結果であると理解し、登校や学習をせかさず安心・安全な環境をつくることが重要になる。とくに動けるようになってきたときの回復段階の見極めは難しいが、「無理をさせない範囲でトライ&エラーをするお子さんを見守って」と福本氏は助言する。ただし、親がもう大丈夫だと思ってもエネルギーがたまっていないことはよくあり、それはたいてい親が焦っているときだという。
「私もわが子が不登校になった際、ゲームを含め好きなことを存分にやらせることに半信半疑で、頑張れば何とかなるという価値観を変えるのが大変でしたが、子どもはゆっくり休むとしだいに笑顔や口数が増えて外に出るようになります。周囲の大人が頑張らせようとしている限り、子どもはなかなか元気になりません」と福本氏は強調する。
だから学校側も、登校刺激は与えないでほしいという。例えば保健室に登校できても、引き止めず予定の時間で帰し、「明日も来れるかな」などの声かけも控えること。安定期の後期と判断できれば参加できそうな活動を案内するのもよいが、無理をさせないよう保護者と連携を取り、本人の選択を尊重すること。重要なのは、学校に行けるかどうかではなく、どのくらいエネルギーをためていけるかという視点だ。

臨床心理士、公認心理師、産業カウンセラー
1953年兵庫県尼崎市生まれ。同志社大学文学部社会学科卒業。95年に当時小学校6年の自分の子どもが不登校になり、カウンセリングや心理学講座に通い始める。2002年産業カウンセラー資格取得。03年にわが子の不登校を経験した母親たちと「親子支援ネットワーク♪あんだんて♪」を設立、代表就任。06年にカウンセリングルーム「こころのそえぎ」開設。16年京都文教大学大学院臨床心理研究科博士前期課程卒業。17年臨床心理士資格取得。19年公認心理師登録。22年「家族支援ネット♪らるご♪」設立、代表就任。著書に『不登校からの進路選択~自分の歩幅で社会とつながる~』(学びリンク)など
(写真:本人提供)