アメリカでマスク着用が再び勧告され始めた理由 「トリプルデミック」で医療逼迫が近づく
シアトルのワシントン大学医学部でアレルギーと感染症を専門とするヘレン・チュー准教授はさらに踏み込んで、感染者数と入院者数が高まっている間は全員がマスクを着用するべきだと言う。
「今はマスクを着用するべきタイミングだと思う。病院は能力の限界に極めて近い。とくに小児科がRSウイルスとインフルの患者であふれている現状を考えると、市中感染のスピードを落とせる対策があるなら、何でもやる価値があると思う」
マスクが呼吸器ウイルスの感染を減らすのに役立つことを示すエビデンス(証拠)は強力だ。香港の研究者らが2020年に発表した論文によると、新型コロナ感染症またはインフルの感染者の呼気に含まれるウイルスの粒子は、不織布マスクを着用することで拡散が抑えられる(ただし、一般的な風邪を引き起こすライノウイルスに対しては、マスクはそこまで効果的ではないことも判明した)。
ボストン地域の学校の新型コロナ感染症対策を調査した研究では、2022年にマスク着用義務が撤廃されたことで、撤廃されていなければ防げた感染が1万2000人近くに達したことが明らかとなった。
ワクチンだけでは防衛は手薄
2020〜2021年の冬にはインフルなどの感染者は例年に比べ圧倒的に少なかったが、その主な要因は全国規模で行われた新型コロナ感染対策だった。「ソーシャルディスタンスの確保やマスクの着用を行ってきた新型コロナでわかったのは、一般的な風邪のウイルスであるインフルやRSウイルスを大きく抑える」にはこうした個人の小さな行動が有効だということだ、とシャフナー氏。
マスクは感染者が着用することで最も効果的にウイルスの拡散を防ぐことができる。それでも、とくにN95、KN95、KF94といった高性能なマスクを着用していれば、自身が感染するのを防ぐ効果もある。
「基本的な事実として、マスクには効果がある」。ニューヨーク市ヘルス・アンド・ホスピタルズで同医療機構全体の特別病原体プログラムの上級ディレクターを務めるサイラ・マダド氏は「新型コロナであれ、RSウイルスやインフルなどのほかの呼吸器ウイルスであれ、マスクを着けることはあらゆるウイルス性の呼吸器疾患から身を守ることに役立つ」と話す。