記事の目次
「1人1台端末」の整備で授業の形も変わらなければならない
部活動消滅の危機にどう対応するか
学校から「部活」を切り離す前に考えたいこと
教員の業務が膨れ上がる中、長時間労働の是正をどう進めるか
学校事務職員という立場から働き方改革を推進
新学習指導要領の新しい評価の規準「3観点」
「教員免許更新制」廃止後の研修制度はどうなるか
学校から悲鳴、教員不足が社会問題化
内閣府が行った子どもの貧困に関する全国初の調査
「お騒がせ」でも人気は絶大、明石市の泉房穂市長に注目

「1人1台端末」の整備で授業の形も変わらなければならない

新型コロナウイルスの感染拡大により3年も前倒しされたGIGAスクール構想。「まずは使ってみる」といったように、走りながら「1人1台端末」の活用を進めてきたというところも多いだろう。

そんな中「デジタルの学びとは何か」「デジタルの学びで何ができるのか」、いったん立ち止まる必要性を訴えるのが、熊本市教育センター主任指導主事(取材当時)の前田康裕氏だ。前田氏に取材した「自ら学ぶ力が育たぬ『教師が教える授業』を脱すべき本当の理由」は、端末の活用を扱った記事の中で、今年最も読まれた記事だ。

教師が教える授業から、子どもたちが学び取る授業に転換する必要性について、前田氏の著書から漫画も抜粋しながらわかりやすく解説する。

部活動消滅の危機にどう対応するか

学校の部活動が、こんなにも注目された年は、これまでになかったと言っても過言ではないだろう。

今、中学校などの部活動を学校単位の活動から地域単位の活動に移行するための準備が加速している。運動部はスポーツ庁で、文化部は文化庁で、それぞれ有識者会議で検討が進み、休日の部活動から段階的に地域移行していく方向にある。

部活動改革の背景には、少子化に伴って学校単位での部活動の維持が困難になっていること、そして指導する教員の負担軽減という働き方改革の2つがある。

こうした中で、「改革仕掛人」として部活動の現場を見つめ続けてきた学習院大学教授(取材当時)の長沼豊氏に取材した「部活動消滅の危機『学校運営だとあと10年』で厳しい状況の訳」では、運動部を中心に部活動の現状と問題点、今後のあり方についてひもといた。

学校から「部活」を切り離す前に考えたいこと

だが部活動は、誰もがスポーツを、また文化芸術を等しく体験できる機会でもあり、よりよい形で存続するためには何が必要なのかは十分な議論が必要だ。

さらに文化部には、運動部とはまた異なった事情がある。中でも吹奏楽部は、比較的練習時間が長いといわれ、教員の長時間労働や生徒の学業との両立問題が指摘されることも多い。

そこで、文化庁「文化部活動の地域移行に関する検討会議」の委員であり、一般社団法人全日本吹奏楽連盟理事長の石津谷治法氏と、『日本の学校吹奏楽を科学する!』の著者である愛知教育大学教授の新山王政和氏の対談を実施。議論が白熱して長時間にわたる取材だったが、「『吹奏楽文化』があと20年で消える?学校から『部活』切り離す前に考えたいこと」は公開直後から多方面で読まれ、さまざまな反響があった。

本当に学校から切り離せるのか、部活動の受け皿、指導人材をどう確保するのかなど課題は多く、各自治体で持続可能な部活動のあり方について模索する動きが今後加速していくだろう。

教員の業務が膨れ上がる中、長時間労働の是正をどう進めるか

部活動改革なくして、学校の働き方改革は実現しないといわれるものの、地道な努力の積み重ねで勤務時間の削減に取り組む学校もある。

名古屋市立豊田小学校で校長を務める中村浩二氏は、教頭時代、校長の指導を受けながら職員と協力して働き方改革を推進。前々任校では過労死ラインとなる月80時間以上の勤務時間外在校者ゼロ、前任校では1カ月当たり1人平均で最大約10時間の勤務時間外在校時間の縮減という成果を出してきた。

こうした中村氏の取り組みを取材した「働き方改革で注目の元教頭、いかに根強い『教員の固定観念』変えたのか」は、記事の公開から半年経った今も継続して読まれている。何かをやれば働き方が劇的に改善するといったことはなかなか難しいが、1つずつ着実に取り組むことが成果に結び付いている好例だ。

学校事務職員という立場から働き方改革を推進

一方、学校事務職員という立場から働き方改革を推進しようと奮起する人もいる。横浜市立日枝小学校の学校事務職員・上部充敬氏だ。

上部氏は「職員室を中心とした『働く場改革』から『働き方改革へ』」「(職員室の)環境が変われば意識が変わる。意識が変われば働き方が変わる」をモットーに、働きやすい職場づくりに取り組んできた。

職員室のリノベーションで『働き方が変わる』学校事務職員の知られざる底力」では、職員室のリノベーションの視点から教職員の人間関係を良好にし、生産性を高めるマインドやノウハウをまとめている。

新学習指導要領の新しい評価の規準「3観点」

22年の教育界を振り返ったとき、高等学校の新学習指導要領が4月にスタートしたことは、やはり大きなトピックだったといえるだろう。20年度に小学校、21年度に中学校と順次実施されてきたわけだが、高校では情報Iだったり、歴史総合だったりと大きな変更があった。

これに合わせて見直された評価の規準が、いわゆる「新しい3観点」だ。先生方の関心が非常に高いため継続して記事を出しているが、國學院大學教授の田村学氏に取材した「新学習指導要領の『3観点』正しい評価3つの方法」は、いちばん読まれた記事だ。改訂の狙いやメリット、評価の注意点などについて詳しくまとまっているため、ぜひ確認してみてほしい。

「教員免許更新制」廃止後の研修制度はどうなるか

そして22年7月には、小・中学校、高等学校校の教員などを対象に10年ごとの講習を義務づけていた「教員免許更新制」が廃止された。

「多忙な教員にとって30時間確保するのは負担が大きい」「ただでさえ勤務時間内に仕事を終わらせることができないのに、外部に研修に行くのは大変」「実践的ではなく現場で役立っていない」など負担感が大きかったため、業務が膨れ上がる一方の現場からは好意的に受け止められた出来事だった。しかし、廃止後に新たな研修制度、またその受講履歴が記録されるとあって現場からは同時に不安の声も聞かれる。

22年度に廃止へ『教員免許更新制』の気になる行方」は、廃止の方向が決まり早々に公開した記事だが、中央教育審議会「『令和の日本型学校教育』を担う教師の在り方特別部会・教員免許更新制小委員会」の委員で、学校関係職員への研修などを行う独立行政法人教職員支援機構 理事長の荒瀬克己氏に取材したもので、この1年を通じてよく読まれている。新しい制度の狙いも含めて確認できる内容になっている。

学校から悲鳴、教員不足が社会問題化

文部科学省が22年1月に公表した「全国の公立学校1897校で、2558人もの教員が不足している」(21年4月1日時点)という調査結果は、学校現場のみならず社会に大きな衝撃を与えた。

だが、調査結果に対し「もっと不足しているはず」「実感とはかけ離れた数字」と声を上げる教員が多くいた。教育研究家の妹尾昌俊氏に執筆いただいた「教員不足『さほど深刻ではない、もっと教員を減らすべき』の大いなる盲点」では、教員不足を決して楽観視すべきではない理由を丁寧に解説してもらった。

妹尾氏の連載は人気で、どの記事もよく読まれるが、ブラック校則や教員の隠れ残業問題、財務省と文科省の教育予算をめぐる攻防など、学校教育の潮流を追ったほかの記事も併せてチェックしておきたい。

内閣府が行った子どもの貧困に関する全国初の調査

今、学校教育を考えるうえで、子どもの貧困問題に関する理解は必要不可欠になっている。「親ガチャ」なる言葉が一時注目を浴びたが、子どもの貧困が教育格差を生んでおり、その現状はコロナ禍でいっそう厳しさを増している。

内閣府は21年、子どもの貧困に関する全国初の調査を実施し、年末に「令和3年 子供の生活状況調査の分析 報告書」を公表。その内容を詳細に紹介した「子どもの貧困、内閣府『初の全国調査』で見えた悲痛な実態」は、子どもの貧困の全国的な実態をグラフとともに読み解いている。

子どもの貧困について全国的な調査が実施されたのは初めてだが、今後は各自治体で継続してこうした調査が行われることが期待されているという。学校教育に関わる多くの人に読んでおいてほしい記事だ。

「お騒がせ」でも人気は絶大、明石市の泉房穂市長に注目

こうした貧困問題解決に必要なのが、子どもは社会で育てるものという視点だ。欧米では一般的な考え方だが、日本は家族文化が強かったり、努力すれば何とかなるといった根性論的なものがあり、親が責任を負うべきという考え方が強い。

さらに日本では、子育て世帯に対する支援が少ないとあって、「子どもを産まないほうが賢い」と考える人がいるのもうなずけるし、少子化が進むのは当然だ。そんな中、所得制限なしで「医療費・給食費・保育料・公共施設・おむつ」という5つの無料化を独自に実施する明石市が、また市長の泉房穂氏が今年大きな話題となった。

何かと「お騒がせ」なところがあるものの人気は絶大の泉市長に取材した「9年連続人口増、明石市の泉房穂市長『子ども予算3倍必要』と考える理由」では、明石市のさまざまな子育て施策に対する市長の思いを丁寧に取材している。

9年連続で人口を増やし、20年の国勢調査では人口30万人を突破。とくに子育て層が増加しており、18年には出生率が1.7と政府目標1.8に近づいた。中核市人口増加率1位(※)、「全国戻りたい街ランキング2021」1位(ウェイブダッシュ調べ)、「SUUMO住みたい街ランキング2022 住みたい自治体ランキング<関西版>」6位(リクルート調べ)という、人気の秘密がわかる内容になっている。
※ 2020年の国勢調査(速報値)と15年の国勢調査を比較

(注記のない写真:Fast&Slow / PIXTA)