義務教育で「社会保障制度」の知識をちゃんと教えるべきこれだけの理由 横山北斗「相談することが当たり前の社会へ」
課題は、個人情報の目的外利用です。就学援助を例にすると、住民税の情報を「就学援助のお知らせ」という、本来の目的以外のことに利用することになります。こうした情報の目的外利用をどう可能にするのか、地域住民と自治体で議論していく必要があるでしょう。場合によっては、国が法律などを整備する必要もあるかもしれません。
義務教育で「ライフスキルの観点」から伝えるべき
──しかし、申請主義の構造的な問題を直ちに変えていくのは難しそうです。
はい、時間はかかるでしょう。そのため、現状ではまず、どんな社会保障制度があるのか、個人が知識を持つことが重要だと思っています。中学を卒業後、進学する人もいれば、就職して社会に出る人もいます。だからこそ、義務教育のうちに、社会保障制度にはいろいろなメニューがあることを知っておいたほうがいいと考えています。
──2022年度から高校では公民科で新科目の「公共」が必修科され、「少子高齢社会における社会保障の充実・安定化」を扱うよう学習指導要領に記載されましたが、それよりも前の段階からしっかりと学ぶ機会があったほうがいいということですね。
教育現場に詳しいわけではないのですが、現状の学校教育では、社会保障に関しては医療・介護・年金の仕組みによる「支え合い」に重きが置かれているように感じます。もちろんそれは重要なことなのですが、長い人生を生きていくうえでのライフスキルという観点から、「困ったときにサポートを求められるところが用意されていること」「さまざまなライフステージやライフイベントに対して社会保障制度が用意されていること」をきちんと伝えていくことも大切ではないでしょうか。
少々論理が飛躍するかもしれませんが、「困ったときにこれだけのメニューがある」という情報を伝えることで、社会に対する信頼感が満たされると思いますし、子どもたちの「チャレンジしよう」という思いにつながるのではないでしょうか。そうした意味でも、社会に出て働く前の義務教育のうちにきちんと学んでほしいですね。
──子どもたちが健やかに安心して成長していくために、社会保障の仕組みや社会はどうあるべきだと思いますか。
繰り返しになりますが、まずは「知らなくて利用できない」という状況をなくすことが大切だと思います。そのための施策の組み上げやデフォルト申請などのプッシュ型支援を自治体が行うこと、義務教育に社会保障制度の学びをしっかり位置づけることが必要です。
また、こうしたシステムの問題と併せて、「誰かに相談する・頼ることは恥ずかしいことではない」と大人が子どもたちに示すことも大事だと思います。それは、制度を利用したり、他者の力を借りたりすることに対するスティグマの軽減にもつながるはずです。
友達同士で「こういう制度を使ったよ」と話せるような環境は、個人の背中を押す絶大な力になります。誰でも、誰かに助けられて生きているもの。その事実と、制度の利活用には違いはありません。相談することや誰かの力を借りることが当たり前の社会になればいいなと思っています。
(文:吉田渓、注記のない写真:mits/PIXTA)
東洋経済education × ICT編集部
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