義務教育で「社会保障制度」の知識をちゃんと教えるべきこれだけの理由 横山北斗「相談することが当たり前の社会へ」
──仕組みの複雑さや専門用語の多さも壁になっているのではないでしょうか。
仕組みは細かいです。例えば生活保護制度において、自分の世帯の最低生活費を調べようと思うと、複雑な表を見ながら電卓をたたいてみないとわかりません。また、前年度の課税所得が基準になる制度なども、自身の前年度の課税所得がすぐにわからなければ、自分が該当するかどうか判断ができません。
おっしゃるとおり、言葉の難しさもあります。社会保障制度の説明は、提供主体である自治体が主語になっているものがほとんど。例えば、生活困窮者自立支援制度の相談窓口に関する説明も、「あなただけの支援プランを作ります」など、作る側が主語の文言になっています。本来なら「お金や仕事や家族について相談できる窓口です」など、利用する側を主語とするやさしい説明であるべきでしょう。
文面を読み解くのが難しい状況にある方に対しては、ソーシャルワーカーがかみ砕いて説明を支援していますが、そもそも伴走者がいないと制度の利活用が難しいというのは問題ではないでしょうか。
社会保障制度は、憲法25条の「健康で文化的な生活を営む権利」、いわゆる生存権のために整備されたものであり、その利用申請にさまざまな障壁があること自体、おかしいと強く思っています。
日本は、申請しないと制度の恩恵を受けられない「申請主義」。しかし、「社会保障制度は存在しているが、利用申請のプロセスにハードルがある」という構造的な問題を抱えているのです。
申請主義の構造的な問題は「データ連携」で変わる?
──その構造的な問題を解消するにはどうしたらよいでしょうか。
自治体がプッシュ型の支援をしていくことも必要だと考えています。自治体はその地域の住民のさまざまなデータを持っていますよね。そうした情報を基に該当者にお知らせする仕組みをつくるのです。
例えばコロナ禍で諸外国では、条件に該当すれば申請せずとも行政が給付金を振り込んでくれる「デフォルト申請」が進みました。そういった体制が日本ではほとんど整いませんでしたが、子育て世帯への臨時特別給付に関しては、該当者にお知らせし、拒否をしない限り申請不要で児童手当の入金口座に振り込んだ自治体もありました。その後の「令和4年度低所得の子育て世帯に対する子育て世帯生活支援特別給付金」も、児童扶養手当受給者に対してデフォルト申請で入金が行われています。
そのほかの現金給付系制度も、データ連携ができればデフォルト申請が可能になるのではないかと思っています。教育に関するところでいうと、利用していない世帯が多いとよくいわれる就学援助制度がその1つです。就学援助制度の認定基準は各市町村が定めるものですが、生活保護受給世帯、住民税非課税世帯などがあります。これらのデータを担当部署が活用できれば、デフォルト申請による受給が可能になると思います。
──実際、デジタル庁の「こどもに関する各種データの連携による支援実証事業」のように、子どもに関するデータを連携してプッシュ型の支援につなげていこうという動きもあります。データ連携を実現するには、どのような課題があると思いますか。