お手伝いでは済まされない「重い負担」

――国はヤングケアラーの実態に関する初の全国調査を実施し、2021年5月には支援策も打ち出しました。世界でもヤングケアラーの支援は進んでいるのでしょうか。

先進的な国は英国です。1990年代から英国で支援の取り組みが広がり、オーストラリアやノルウェー、スウェーデン、最近ではドイツなどでも関心が高まっています。日本では、2000年ごろから言葉や概念は紹介されてきましたが、複数の調査からヤングケアラーが決して特殊なケースではないことがわかってきたのはここ5~6年です。ようやく存在が認識されるようになってきた段階かなと思います。

――ヤングケアラーの定義は世界共通なのでしょうか。

国際的には「慢性的な病気や障害、精神的問題やアルコール・薬物依存などを抱える家族の世話をしている18歳未満の子どもや若者」と定義されています。しかし、日本においては、支援が必要な対象として、高齢者や幼いきょうだいの世話や見守りなども含め「年齢の割に重い責任を負い、ケアが必要な家族の世話をしている18歳未満の子ども」と少し広く捉えることが求められると思います。

なぜなら日本では、ケアの対象が必ずしも障害や病気を抱える親やきょうだいとは限らないからです。今回の国の実態調査により、予想以上に幼いきょうだいの世話や家事を担っている子どもが多いことがわかりました。しかも、かなりの時間や労力を割き、疲労もたまっている実態が明らかになったのです。これと同様の傾向は、私が過去に関わった新潟県南魚沼市や神奈川県藤沢市での調査でも見られました。

ヤングケアラーと思われる子どもが「いる」と回答した学校に、子どもの状況について質問(複数回答)した学校調査結果

日本では、家事やきょうだいの保育園の送迎、遊び相手などは「お手伝い」と認識されており、それが「よいこと」「美しいこと」だと漠然と思われてきました。しかし、勉強や友達と遊ぶための時間がなくなり、睡眠不足になったり、学校に行けなくなったりという状態は「お手伝い」では済まされないのではないでしょうか。

心理的・物理的負担を経て最後は諦めていく

――改めて、実態調査の結果から見えてきたポイントについてお聞かせください。

今回の国の調査により、さまざまな角度から実態が「見える化」された意義は大きいです。また、県内調査ですが回収率がよかったのが、埼玉県が20年に高校2年生を対象に実施した「埼玉県ケアラー支援計画のためのヤングケアラー実態調査結果」。この両調査を踏まえ、お話しします。

まずは存在率が可視化されました。国の調査では、世話をしている家族がいると回答した生徒は中学2年生で5.7%、全日制高校2年生で4.1%。埼玉県の調査でも、自身をヤングケアラーである、または過去にそうだったと自覚している生徒の割合は4.1%に上り、1クラスに2人弱程度の割合で存在することがわかりました。

また、埼玉県の調査ではケアの対象者は母と祖母が多いことが示されました。日本では昔から家事や育児、介護を担うのは女性であることが多いですが、その女性たちが倒れてしまうと子どもにケアの負担がかかる傾向が見て取れます。祖母が家事を担う1人親家庭で、祖母に何らかのケアが必要になって子どもがケアを担うことになるケースが少なくないことなどもうかがえます。

注)本集計は被介護者数(2185人)に対して行っている

国の調査では、中学2年生のヤングケアラーが学校のある平日にケアにかける時間は、平均約4時間。高校2年生を対象とした埼玉県の調査では2時間未満が約7割ですが、6~8時間以上も約4%を占めました。朝8時ごろには学校に行って部活などがあると帰宅が夜になる中高生の生活サイクルを考えれば、いずれも長いケア時間であり、負担はかなり重いといえるでしょう。

――ケアを担うことで、子どもたちにはどのような影響がありますか。

埼玉県の調査では、ケアの時間に比例して悩みが深刻になる様子がうかがえました。こちらは、学校のある平日の「1日当たりのケア時間と学校生活」への影響をまとめたグラフの一部で、1時間未満は795人、8時間以上は30人と、数がかなり違うので単純に%の比較をするのは注意が必要ですが、それでもある程度の傾向は見えるように思います。

1時間未満でもストレスや孤独を感じていますが、2時間以上になると勉強時間や睡眠時間が取れない状況も増えてくる。4時間以上では、遅刻が多い、部活ができない、成績が落ちた、友人と遊べない、しっかり食べていないといった深刻な状態の割合も上がっていきます。

いちばん負担がかかっているのは平日のケアが4時間以上6時間未満の生徒で、6時間を超えると普通の学校生活を諦めていく。諦めることで葛藤は減るけれど、周囲と話題が合わずに学校も休みがちになる人も増えていきます。こうした段階を経た影響が、調査によって見えてきました。

長期的には働き方や評価の改革も必要

――今、なぜヤングケアラーの問題が深刻化しているのでしょう。

日本は1世帯当たりの人数の減少や共働き家庭の増加により、家のことに時間をかけられない家庭が増えました。しかし、ケアを必要とする人は増える一方で、それでも家庭内のケアを考慮しない働き方が主流であり続けたため、家庭と仕事の両立が困難な社会になってしまったという背景が、ヤングケアラーを生んでいる根本要因であると思っています。

実際、大人が家計維持のために外に出ている共働きや1人親世帯などで、子どもがケアをやらざるをえないケースが多々あります。しかも、家族から「助かるよ」と言われると、子どもはギリギリまで調整して頑張ってしまう。それが見過ごされてしまっているのは大きな問題です。子どもが、ケアを抱える生活の中でどれだけの時間をかけているのか、その全体像が見えていない大人が多いと思います。

こうした中では、国が5月に支援策として打ち出した早期発見や認知度の向上はやはり大事ですし、「このケアにはあのヘルプサービスが使える」など、一緒に整理してくれる第三者の存在も必要であると考えます。

子どもだけでなく、親の自覚も重要です。「祖母の病院の付き添いを中学生が担うのはおかしい」と医師から指摘され、親戚に付き添いをお願いすることにした親などもいます。このように親が外部から助言をもらったり、ヤングケアラーの概念を知ったりするだけで、子どもの負担が分散されることはあります。

――国は、学校と福祉・介護・医療が連携した支援を検討するとしていますが、学校はどんなことができるでしょうか。

先生方がヤングケアラーという言葉、概念を知ることが第一歩です。そうすれば、遅刻が多い、宿題をしてこないといった行動があった際の声がけの仕方は変わるはずで、原因の気づきにつながると思います。

気をつけたいのは、安易にヤングケアラーのレッテルを貼らないこと。学校では普通でいたい、特別扱いされたくない、家の事情を話したくないという子どももいます。クラスの中にヤングケアラーがいる可能性を考えたうえで、学校でのヤングケアラー支援の選択肢が子どもにわかるような体制がつくれるといいですね。宿題の提出に猶予を与えるとか、放課後に空き教室で勉強できる環境を整えるなど、子どもが肩身の狭い思いをしないように工夫してほしいです。

一方で、子どもがいつでも相談できる体制も重要です。役所には公的支援の情報がありますが、子どもが自ら役所に行くことはほとんどありません。子どもにとって身近な学校という場に、地域包括支援センターのスタッフやスクール・ソーシャル・ワーカーなどの専門家が入り、情報を伝え、相談を受け、必要な支援につなげる仕組みが必要です。

今後は学校の中でヤングケアラーに関して責任を持つ先生を決めて、子どもや保護者に情報発信していく取り組みも進むはずですが、学校は子どもに「大変だったら助けを求めて」というメッセージを伝えてほしいと思います。

――ヤングケアラーの課題解決に向け、どのような視点が必要ですか。

ケアを公的支援ですべて肩代わりすることは不可能だと思います。それでも、子どもが自分の時間と家族のケアの時間との間で、よりよいバランスを見つけられるようサポートし、子どもが自身の可能性を十分に発揮できるようにすることが大切です。

澁谷智子(しぶや・ともこ)
成蹊大学文学部現代社会学科教授。東京大学教養学部卒業後、ロンドン大学ゴールドスミス校大学院社会学部Communication,Culture and Society学科修士課程、東京大学大学院総合文化研究科修士課程・博士課程で学ぶ。学術博士。日本学術振興会特別研究員、埼玉県立大学や立教大学の非常勤講師などを経て、2020年4月より現職

実は元ヤングケアラーの若者たちは、ケアを頑張ってきたことが就職活動で評価されずに悩むことも多々あります。高校卒業や大学卒業が遅れることも多い彼らは、資格取得やサークル活動、留学経験などをアピールする学生と比べて低く見られてしまうのです。中には「生活をしていただけ」「君のやってきたことは無駄だったね」と言われてしまう子も。そのため彼らは自信を失い、将来への不安を抱えています。

この問題は、育児や介護など家族のケアを仕事に支障があるものとして扱ってきた日本の働き方と密接に関わっています。ヤングケアラーはケアと自分の生活を回してきた人たちですから、本来なら仕事ができる人材だと評価されるべき。彼らの経験や力を生かせるようになれば、きっと社会はよくなります。

だから長期的には企業や教育現場に、ケアを組み込んだ働き方や評価システムが浸透する必要があると思います。ヤングケアラー支援も、ちょっとした隙間時間や労力、寄付などで積み重ねていける、誰もが参加しやすい持続可能な仕組みが必要だと感じています。

(注記のない写真はiStock)