情報端末で自殺リスクや精神不調を可視化、学校導入広がる「RAMPS」とは? 中高生の回答「約6割にうつ症状」見られた年も

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あえて聞くことは「話してもいい」というメッセージになる

「一人でも見過ごさないために」という思いで研究開発してきたというRAMPS。設計の随所に、試験実施校や導入校での生徒や教員の声を反映させてきた。

例えば、情報端末上で行う1次検査の質問11項目は、「医療機関で幅広く使われている科学的根拠のある質問項目から、10代で起こりがちな精神不調やいじめなどの学校問題に関連するものを絞り、構成した」(北川氏)が、言葉遣いは子どもたちが理解しやすい形に調整した。

また、原則として1画面につき1つの質問を表示し、すぐに次の質問画面に移行できるようにしている。学校で行われる紙のアンケート調査は、誰かに見られるかもしれないので「答えにくい」と話す生徒が多かったからだ。いじめなどのデリケートな項目は、選択肢を小さめに表示するなどの配慮もした。

1次検査の11項目は、3分程度で負担なく回答できるよう設計

「はい」「いいえ」では答えられないようなつらい気持ちの度合いなどについては、「まったくつらくない」から「ものすごくつらい」までを、画面に配置されたスライダーを動かすことで、直感的に0〜100の割合で示せるようデザインした。

養護教諭の声を反映し、回答に要した時間を項目ごとに計測・記録できる機能も実装。即答の「はい」なのか、迷ったうえでの「はい」なのか、心の揺らぎを察知するためだ。「時間の計測はデジタルだからこそできること」だと北川氏は言う。

こうした1次検査の回答を基に、面接でより詳しく質問する2次検査を行うと、自殺リスクが4段階で評価される。「自殺リスク高度」に該当するレベル4の場合には、校内でRAMPSの運用に携わる関係者にアラートが自動発信される。「この機能はコロナ禍で実装しました。自殺リスクが高まっていた時期でしたので、検査を行った教員を孤立させないよう、そして学校全体で生徒たちを見守ることができるようにしたのです」と、北川氏は説明する。

2次検査(写真はイメージ)は、心配な項目を中心に、養護教諭が画面に表示される質問文に沿って問診

保健室でRAMPSの入力を勧められて拒否する生徒はほとんどおらず、しかも大抵は正直に回答してくれるそうだ。コロナ禍の臨時休校中にリモートで全校生徒に1次検査を行った学校では、問題がないと評価された中学1年生の生徒が学校再開後、担任に「在宅時は生きていても仕方ないと思ったことはないと答えたけど、実はあります」と打ち明けてきたケースもあったという。RAMPSは心の内を開示するきっかけをつくるようだ。

北川氏自身も、RAMPSの2次検査を手伝ったときに驚いたことがある。一見すると元気そうな中学生男子が「死にたいと思ったことがあるし、死のうと計画したこともある」と話してくれた。

「繊細な質問に答えてくれたのはどうしてかと尋ねてみたら、キョトンとした顔で『これまで聞かれなかったから言えなかったし、聞かれない限り自分からは言えない』と答えてくれました。学校関係者の中には『自殺について質問するなんてリスクを高めるだけだ』と心配する方もいますが、ストレートに聞くことは、子どもたちにとっては『話してもいいんだよ』というメッセージになるのです」

実際、RAMPSを導入した学校では、まったく問題がないと思っていた生徒や、何となく心配だと思っていた生徒の自殺リスクや精神不調の見過ごしを防げたケースが「想像していたよりもずっと多くある」と北川氏は言う。

とくに回答結果が可視化される効果は大きい。養護教諭が担任や校長、保護者などの関係者に状況を説明しやすくなった、危機感の理解・共有が円滑になり校内外の支援につなぐことができた、精神科などを受診する際に状態を医師に説明する手助けになったなど、さまざまな成果を得ている。

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