最高裁の暗闇 少数意見が時代を切り開く 山口 進・宮地ゆう著 ~少しずつ進む 市民的自由の拡大
本書を読み終えた時、日本の民主主義に、少し安堵した。さまざまな問題点があっても「法の支配」の根幹は守られている、と。
司法の役割に関して次のような二つの立場が紹介されている。「法で社会をよりよくすることに希望を抱く立場」は「社会は進歩するもので、そのために法律家は法律という道具を使って手助けできる」という思想に基づく。それに対して「法律家が社会を支配すべきではない」という観点に立つ人は「法の限界を正しく認識せよ」という抑制的な立場に立つ。それは傲慢さへの戒めである。
この二つの立場は、まず「少数意見」として判決に登場する。そして、それぞれが「多数意見」を形成するようになる。
詳しくは本書を読んで欲しいが、光市母子殺害での「死刑判決」の「死刑の選択をするほかない」の文言(かつては「死刑の選択も許される」)の意味。海外に住む日本人の選挙権の認定(どこに住んでいるかで人を差別すべきではなく、国の主権者は誰かを改めて確認)。あるいは都市計画をめぐる裁判(林試の森事件)での、市民の権利の擁護と、国側の主張の否定(行政が負けることはほとんどなかった。法律は彼らが作るから)。また国籍法や非嫡出子に関する判決(子どもは親を選べない。それゆえ生まれによって差別すべきではない)など、少しずつだがつねに最高裁判所は変化していることがわかる。
それは市民的自由の拡大と言ってよい。一人ひとりの裁判官の言葉(考え方)を丹念にたどり、最高裁の仕組みを説明しつつ、判決とクロスさせ問題の所在を浮き彫りにする著者の方法は説得的だ。市民の関心もまた裁判のあり方を左右することがよくわかる。本書は、すばらしい調査報道の好例である。
やまぐち・すすむ
朝日新聞GLOBE副編集長。1966年生まれ。東京大学法学部卒業。朝日新聞記者として最高裁などを担当。テレビ朝日でディレクターも経験。
みやじ・ゆう
朝日新聞GLOBE記者。1974年生まれ。朝日新聞入社後、米コロンビア大学政治学修士課程修了。社会グループ記者を経る。
朝日新書 819円 255ページ
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